[アテナ]
戦争と技芸の女神。周知のように処女神。

父親は主神ゼウス、母親はオケアノスの娘『大洋の乙女クウレ』の一人であり、知恵を司る女神メティス。
メティスは、父の体内に飲み込まれたゼウスの姉や兄を救い出す為に、クロノスに飲ませる吐瀉剤をゼウスに渡すなど、クロノスとの戦いにおいてゼウスに大きく協力した。
その縁あってゼウスの最初の妻となるが、アテナを妊娠した折にガイアやウラノスからある予言を下された為に、ゼウスに飲み込まれてしまった。(一説によると、ゼウスはメティスが水に変身したところを飲み下したともいわれる。)
予言の大意は次の通り。
『最初に深い思慮を兼ね備えたきわめて優れた娘が生まれる。その後に生まれてくるのは、すべての上に君臨する傲慢な心を持つ息子である』
素直に解釈すれば、アテナの弟が次代の主神となる、ととることが出来る。
おそらく、メティスが妊娠していた子が一人か双子かの判別をつけるだけの能力をゼウスは持たなかったのだろう。その為、メティスはアテナともどもゼウスに飲み込まれることとなった。
が、かなりうがった見方ではあるが『メティスがアテナの次に産む子』ではなく『次にアテナが産む子』という解釈も出来なくはない。
そういう考え方をすると、ゼウスがアテナの誕生を阻止しようとした理由が分からなくもない。

一般に、ゼウスはメティスを飲み込むことによって彼女の英知を我が物としたと云われているが、その後のゼウスの行動を考えるに、吸収できたとは到底思えない。
むしろ、メティスは最後に残された自身の力のすべてを振り絞り、娘を誕生させることに成功したのではないだろうか。
ここから、ゼウスの頭から誕生した、という誕生のエピソードにつながっていく。
ある時、頭痛を訴えたゼウスはプロメテウス(ヘパイストスとする説もある)に頭を斧で開き、頭痛の原因を取り除くよう命じた。不死の神はやることが豪快である。
そして割り開かれたゼウスの頭から甲冑をまとった姿でアテナが誕生するのである。

実は、この予言のおかげで、劇場版にて創作された神・アベルが非常に組み込みやすくなる。
ギリシア神話の神々は、『兄弟姉妹』としての意識は同母ならば存在するが、異母だと希薄になるケースが多い。
なので、アベルとアテナは同母であり、おそらくゼウスがクロノスと戦う以前にメティスに産ませた子供だという設定にするのが一番自然だと思う。

神話上のアテナは、はっきり云って慈悲深いとは断言しがたい。
まず、メデューサを怪物の姿にしたのも、ペルセウスに討たせたのもアテナだ。
メデューサが怪物の姿になった理由は二通りあり、一つは一般によく知られた『メデューサがアテナ以上だと自身の髪の美しさを誇った為』。もう一つは『アテナの聖域でポセイドンと交わった為』。
後者はともかく、前者に慈悲のかけらも見当たらない。後者でも、殺させることはないだろ。
似たエピソードで、アラクネという織物自慢の少女のものがある。
『自分の織物の腕前はアテナ以上だ』と誇ったアラクネの鼻を折る為に、彼女と織物の勝負をしたのだが、アラクネも開き直りもあったのだろう、神々を風刺する図面を織り出した為にアテナの怒りを買い、蜘蛛に変えられてしまった。
しかし、彼女の織り出した図面というのはゼウスが女に手を出す為に四苦八苦する光景だったそうなので、むしろ神々も己の居住まいを正すべきでは……。

また、『パリスの審判』におけるアテナも中々いい根性をしている。
これは『最も美しい女神へ』と書かれた黄金の林檎を三人の女神が取り合い、その判定をトロイアの王子パリスが押し付けられ――というトロイア戦争の遠因となった事件である。
この時、名乗りを上げたのは美の女神アプロディテ、「本気でドレスアップしたらオリュンポスで最も美しい」とゼウスに云わしめた天空の女王ヘラ。この二人はいい。
しかし、何故、容色について褒められた説話を聞かないアテナが名乗り出るのか。確かに『輝く目の女神』とはいわれているが、美女という話はさっぱり聞かないが。
ギリシア神話のアテナは、かなりいい性格をしていると思うのは月読だけだろうか……。
[ポセイドン]
海の神であり、地震を引き起こす神であり、馬の神でもある。
『大地を揺るがすもの』という異名を持ち、一説には大地の女神デメテルの最初の夫ともいわれている。
その手に持つ三叉の矛は海を荒れ狂わせ、風を操り、地震を起こし、あるいは戦士達を鼓舞する能力も持つ。

クロノスとレアの間に生まれた姉弟の一人であり、ゼウスから見ればすぐ上の兄にあたる。
天界・海界・地下の三界の支配権をハーデス、ゼウスと決定する折に(地上はいずれの神の物ともしないということになっていた)、籤で海界を引き当てた為、その後は海神となった。
しかし、あるギリシア神学者によれば、彼が実質的な海の支配権を得たのは正妃・アンピトリテとの婚姻からだという。
アンピトリテは系譜を参照していただくと分かるが、大洋オケアノスの孫であり、海の老人ネレウスの娘でもある。
つまり、彼女は海の属性を持つ純血の女神であるといえ、『神統記』によれば他の三人の姉妹と共に、荒れ狂う波浪と風をやすやすと鎮めるほどの力を持っているとされている。
そういった背景から、ポセイドンは海界に入り婿をしたといえるだろう。
それを裏付けるように、ポセイドンの愛人達は一部を除き、アンピトリテより神格の劣る存在が多い。
「あくまで女遊びであって、正式な妻は君だけだ!」というポセイドンの声が聞こえてきそうである。

ところで、ポセイドンとゼウスの仲は神話でも良好とは云い難い。
不仲の理由の最大の原因はイカサマだと評判の籤引きにあるという説がまことしやかに囁かれているが……真実はどうだろう?
[タナトス]
夜の女神・ニュクスが単独で産み出した神々の一人。ヒュプノスとは双子だが、どちらが兄か、に関しては定説はないようだ。
死すべき人間の神を一房切り取り、それをハーデスの元に送り、その後死者を冥界に送り届ける役目を帯びている。

神話上のエピソードは多くはなく、トロイア戦争においてヒュプノスと共にサルペドンの遺体を故国リュキアに送り届けたことと、テッシリアの王妃アルケスティスやコリントスの王シシュポスを迎えに来た話があげられる。
アルケスティスは夫アドメトスの身代わりに死する事を自ら選んだ為、夫の代わりに死の迎えが寄越されたのだが、この話の結末は諸説ある。
夫の代わりに死んだ妻の心根にうたれたハーデスが地上に戻る事を許した、という説や、宮殿に滞在していたヘラクレスにタナトスが撃退されたというものもある。
シシュポスの一件も同様に諸説あり、一つはタナトスによりシシュポスは一度は冥界に連れて来られたが、ハーデスを謀り地上に戻ったというもの。(シシュポスは再び死した時、その罪によりタルタロスに落とされた)
もう一つは、冥界に連れて行く為に訪れたタナトスがシシュポスに騙され、地下牢に閉じ込められたというもの。ちなみに、牢から救い出したのはアレスだそうだ。
これらを見ると、タナトスの人間嫌いの理由の一端が分かる気がする。
[ヒュプノス]
同じく、ニュクスの息子。眠りの神。

ヘラの頼みでゼウスを眠らせたこともある。トロイア戦争の折とヘラクレスに関わる一件と、都合二度になる。
『イーリアス』によると、ヘラがギリシア側を勝たせる為にゼウスを出し抜こうとしていた為、その協力を要請された形になっている。
その時、以前にもヘラの頼みでゼウスを眠らせ、その怒りを買ったヒュプノスは渋ったが、ヘラが成功報酬を約束したので、その要請を飲むこととなった。
が、このエピソードよりも、二人の対話の中で出た、以前にゼウスを眠らせた時の後日談の方が格段に面白い。
要約すると、怒り心頭のゼウスの執拗な捜索から身を守る為に、ヒュプノスは母・ニュクスの元に逃げ込み、ニュクスと争うことに尻込みしたゼウスはしぶしぶ報復を諦めたというもの。

また、夢の神オネイロス(複数形オネイロイ)はヒュプノスとニュクスの息子達であり(原初の神々の間では母子相姦はタブーではない)、この二つを合わせ見るとヒュプノスマザコン疑惑が浮かび上がってくる。
[ハーデス]
冥府の神。一般的にクロノスとレアの長男だとされる。

イカサマ疑惑のある籤引きによって冥界にむしろ押し込められたわりには、すんなりとその職務を受け入れ、その後ほとんど地上に姿を現さなくなる。
彼のほとんど唯一といっていいエピソードは、デメテルの娘ペルセポネの誘拐譚になる。
この話はご存知の方も多いと思うが、祖筋を述べると、ペルセポネを花嫁とするべくハーデスは彼女を冥府に連れ去ったが、母親であるデメテルの嘆きが深く大地が不毛となった為、ペルセポネを地上に返すこととなった。
が、既に彼女は冥府の柘榴を口にしており、冥府の定めに従って食した柘榴の粒の数だけの月を冥府で過ごすこととなった、という話である。
実は、デメテル、ペルセポネには話がいっていなかっただけで、ハーデスは父親であるゼウスに結婚の許可を頼んでいたのである。
おそらく、ハーデスはゼウスを信用し、ゼウスから二人に話が伝えられたと思ったのだろう。するわけないじゃないか、ゼウスが。

だが、始まりはともかく、この夫婦は不仲だというエピソードが皆無である。
特にハーデスは他の兄弟と違い、浮気のうの字もない。
少ないエピソードの中からでも、ハーデスの誠実さが感じられるのは月読の気のせいだろうか……。
[エリス]
不和と争いの女神。
ニュクスの娘。つまり、双子神の姉妹。(ただし、アレスの双子の妹とする説もある)
ゼウスの長女である愚行の女神アテを産んでいる。月読は個人的にメティスの妊娠中にゼウスがエリスに手を出したと思っている。
物語などでは、戦場でアレスと行動を共にする描写が多い。なので、勝手にゼウスからアレスの愛人に鞍替えした、とも考えている。

彼女のエピソードで有名なのは、プティア王ペレウスとテティスの結婚式での一件である。
テティスは、必ず父親より偉大な子供を産むと預言されていた為、ゼウスもポセイドンも求愛を諦めたという女神である。
その為、取るに足らない人間の妻とされた。(なお、彼女が産んだのが、英雄アキレウスである)
その結婚式に、不祥だという理由で神々の中でただ一人呼ばれなかったエリスはその仕打ちに腹を立て、結婚式の場に「最も美しい女神へ」と書かれた黄金の林檎を投げ入れ、式をぶち壊した、とされている。
これが、トロイア戦争の原因を呼ぶのだが、彼女の娘・アテを視野に入れると、この話の解釈は少し変わると思う。

アテは系譜の説明書きでも触れたが、天界を追放されている。
その理由は、ヘラクレスが誕生する際にゼウスが判断を誤る原因の一端を担っていたからだが、『イーリアス』に描かれた追放劇の描写はむごい。
アテは父親に首根っこを掴まれ、天上から放り落とされているのだ。

月読が思うに、黄金の林檎事件は、娘にむごい仕打ちをしたゼウスに対する意趣返しだったのではないだろ〜か……。
[アルテミス]
月と狩猟の処女神。
一般的に、アポロンの双子の妹といわれているが、生まれて七日目には難産で苦しむ母レトのお産を助けるまでに成長していたという話だから、アポロンより先に誕生していたのは間違いない。

彼女に仕えるのは女ばかりのニンフ達であり、彼女は自らの侍女にも純潔を守る事を求めている。
その為、ゼウスに犯され妊娠したカリストなど、熊に姿を変えられ追放されている。(彼女達親子については大熊座・小熊座の神話に詳しい)
勿論、侍女ばかりではなく、自身の処女性を守ることにも頑なで、偶然彼女の沐浴を見てしまった為に鹿に変えられ己の飼っていた猟犬に食い殺されたアクタイオンの説話などはその際たるものだろう。(こちらは小犬座の神話になる)

また、アクタイオンのエピソードでは、仕えるニンフが慌てて彼女の裸体を隠そうとしたが、背の高い彼女の上半身を隠しきれなかった、とあり、彼女が長身であったことが伺える。
同じ資料には、彼女が緑色の瞳である、とも書かれていたので、映画のあのカラーディングはありかな、と……。
[アポロン]
太陽と音楽、遠弓の神。
彼のエピソードといえば、悲恋話が多い。烏座の神話や、月桂樹に変じたダフネの話など、聞いたことがある人はいらっしゃると思う。
しかし、何といっても、オリオンの死に関わるエピソードは外してはいけないだろう。
これも諸説あるが、その中の一つに以下のようなものがある。

要約すると、目の治療で訪れたある島でアルテミスと知り合ったオリオンは、彼女と意気投合し、共に狩猟をしたりと親しく付き合うようになった。
その内に、オリオンはアルテミスに恋心を抱く様になった。アルテミスも決してオリオンを疎んではいなかった。
だが、その事態を面白く思わぬアポロンは、海上に頭だけを出した状態で海を渡っているオリオンの頭を指し示し、アルテミスにこう云った。
いかに弓の名手といえど、波間に漂うあの小さき物を射抜くことは出来ないだろう、と。
その言葉に刺激されたアルテミスは、それがオリオンの頭と知らず射抜き、彼を死なせてしまった。

この話から、アポロンの度を越した姉妹への執着が見て取れる。
この辺りを、きっと当時のアニメスタッフはアベルを設定する時のモデルにしたんだろ〜なぁ……。

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