「おいっ! 万太郎!! なに勝手に人の携帯見てるんだよ!!」
「それより、キッド! なに、この待ち受け画面!! 誰だよ、キッドと一緒に写ってるこの子!! 彼女!?」
「従妹だ、従妹!」
「へえ、いとこがいたのか、キッド」
「珍しいだね〜。同族婚ならともかく、超人は子供出来にくいのに」
「母方の従兄妹達だよ。パパは一人っ子だから、父方にはいないぜ」
「ふうん。仲良いんだな、お前ら」
「ワシも、妹達を携帯の待ち受け画面にしてるだよ。見る? アニキ」
「……見ない。それより、キッド! その子、紹介してよ〜。ね? ねえったばあ」
「い、や、だ!」
「ケチ!」



『ある日常』(04年6月初出)
当サイト自流設定ではキッドと翔野家の従兄妹達は仲良し。大阪赴任はある意味里帰りだったのかもしれない(笑)
 視界に入らぬ位置に立った相手は無言であったけれど。
 その気配に気付かぬほど、鈍くはなかった。
「なにか、用か? コートなら、お前のセコンドに返してもらったぜ」
 視線どころか顔も向けず、素っ気無く、ケビンの口から転がりだしたにべもないその言葉に。
 負けず劣らず、愛想のない硬い口調で、やや高めのアルトが返ってきた。
「用なら、あるに決まってるでしょう? もう、返してても、私は、コートを貸してもらったお礼を言ってないわ」
「――別に礼を言われる覚えはねえぜ」
 蒼いマスクの後頭部に投げかけられるフィオナの声に、やはりケビンは振り返らぬままで。
 投げ出すような声音で短く切り返す。
 その言い分に、フィオナは苛立ち半分、呆れ半分に、少し声を荒げた。
「借りたらお礼を言うのは、当たり前の礼儀でしょ!」
 それから、軽く嘆息をこぼして――わずかに微笑んでこう付け加えた。
「――ありがとう。ちゃんと対等の超人レスラーとして認めてくれて」
 フィオナのその微笑は、背を向けたままのケビンには見えなかっただろうが。
「……それこそ、当然のことだろうが。リングの上で男も女も関係ねえだろ」
「男の子は、それを言わない子が多いのよ!」
 素っ気無く吐き捨てるようなその口調の中に、そうではない要素がわずかながらに混じっていたことを。
 呆れと苛立ちの混じったフィオナの一喝に、苦笑の成分があったことに。
 気づいた者は、まだいなかった――。



『コートのお礼』(04年7月初出。05年4月加筆修正)
長さが半分くらいしかなかったので、書き足しました(笑)
「……降り出してきたな」
 ぽつり、と外を眺めていたフォークが呟く。
 その声に、ハンゾウとボーンも、酒場の入り口にはめられた小さなガラスに視線を向けた。
 曇ったガラス戸に、ぼんやりと映る雨が描く斜線と。
 扉越しでも耳を打つ、激しい雨足。
 そして、わずかな隙間から屋内に忍び込んでくる、肌にまとわりつくような湿気を孕んだ空気。
「……通り雨か」
「……ちっ……。鬱陶しいな……」
 カラン、とボーンの手の中で、酒に浮かぶ氷がグラスにあたり、小さく涼やかな音をたてた。
「……なに、すぐに止むだろう」
 かすかな舌打ちまじりのボーンの呟きに、ハンゾウは微苦笑を口元ににじませながら、手にした酒を口元に寄せる。
「早く止んで……すっきりするといいな」
 そして、視線は入り口のガラスに固定したまま、フォークがぽつり、と呟いた。
 ――夕立はしばらく……止みそうにはなかった。



『通り雨』(04年8月初出)
夏の時事ネタ。こういうシーンに似合うのはノーリスペクトの三人ですよね。
「きゃっほーい(^▽^) 海だ、海だ〜」
「U世ー、あんまり一人で遠くに行くんじゃありませんよー」
「ったく、しょうがねえなあ。万太郎の奴」
「けど、アニキ、泳げないんじゃなかっただ?」
「……浮き輪持ってる上に、手にも足にも浮き具つけてて溺れる奴がいたら見てみたいぜ」
「海で泳ぐのは初めてです(ワクワク)。でも、すごいですね。こんなに多くの水は一体どこから来るのでしょう?」
「それは少し説明しにくい質問だなあ。キッド、頼むわ」
「何故、オレにふる!?」
「いや、お前、二代目解説超人だろ?」<悪気なし。
「オレはパパとは違う!!」<泣きながら脱兎。
「!? キッド? どこ行くだ!?(汗)」



『海』(04年8月初出)
夏の時事ネタ。はしゃぐお子様達(笑)
「わあ、ぼたもちじゃん」
「おいしそうですね」
 ある日、いつもの面子が美波理公園の万太郎のところに集まった時のこと。
 テリー・ザ・キッドがお土産だと言って広げた重箱の中身を見て、万太郎とチェック・メイトの嬉しげな声音があがった。
 その、万太郎の発言に、新世代超人の雑学王・キッドの駄目出しが飛んだ。
「違うぞ、万太郎。ぼたもちと呼ぶのは春の彼岸の時だけだ。そもそも『牡丹餅』というのは牡丹の花になぞらえた呼び方で、秋の彼岸の時は萩の花になぞって『御萩』と呼ぶんだ」
「え!? おはぎってこの、きな粉のやつのことじゃないの?」
 重箱に並んでいるのは、二種類の和菓子。外側をあんこで包まれた“ぼたもち”と、きな粉をまぶした“おはぎ”。
 その認識は間違っている、と主張する日米ハーフの言葉に、他の面々は素直に頷く。
「へー。日本語って面白いだねー」
「流石、二代目解説超人。雑学にも詳しい」
「ガゼル……しつこい」
 本人的には不本意な二つ名は、夏に海に行った時から仲間内で定着していたものだった。
「ところで、キッド。もしかして、これって手作りですか?」
 流しの方から、人数分の湯飲みと急須をお盆に載せて持ってきたミートがさりげなく、横道に逸れていく話題を修正する。
「ああ、大阪の小母さんが料理好きでな、みんなで食べなってくれたんだ」
 キッドの発言に、万太郎は盛大に羨ましがった。
「いーなー、キッド。従妹はかわいーし、おばさんは料理上手だし。うちの母上なんか、お粥と牛丼とカルビ丼しかできないよ」
「でも、アニキのお母さんは王妃様なんだし、出来なくてもおかしくないだよ」
 ぶーたれる万太郎を宥めるセイウチンの隣から、チェックの嬉しそうな声が上がった。
「キッド。これ、とても美味しいです。あんこも甘さ抑え目で何個でも食べられます」
 その手には既に、三個目のおはぎが咀嚼待機をしていた……。



『お彼岸』(04年9月初出)
秋の時事ネタ。キッドの親戚関係が徐々に明らかに……(笑)
「――その格好でリングに上がるつもりか?」
 超人オリンピック・ザ・レザレクション。
 その、英国国内予選、その会場。
 コートの裾をたなびかせて試合場へ向かおうとするケビンマスクの背に、淡々とした疑問の言葉が投げかけられた。
「……オレの勝手だろうが。第一、予選程度、このままで充分だ」
 苛立たしげに舌打ちし、ケビンマスクはクロエの言葉に反論する。
 自分が予選ごときで敗退するなどと思っていない。本戦決勝トーナメント、それを勝ち残る実力はあると自負している。
 第一、クロエ自身も、国内予選程度に引っ掛かるような男なら、わざわざ選んでコーチしない、と一度明言していた。
「勝敗の問題ではない。国内予選も勝ち抜けないような男を指導した覚えもないからな。オレが言っているのは、超人レスラーとしての礼節の問題だ」
 このコーチは滅多に感情を荒げない。大概の状況下では、冷静沈着を絵に描いたように無表情に淡々とこちらの問題点を指摘する。
「リングに上がる以上、それに相応しい姿勢で臨むべきだろう。それでは場末の喧嘩と変わりないぞ」
 落ち着いた声音でそう言われ、ケビンマスクは盛大に舌打ちした。
「…………予選なんぞで臨戦態勢なんかとってたまるかっ!」
 そんな見苦しい真似は絶対にお断りだと、言外に主張するケビンマスクに、クロエは感情の起伏のまったくない静かな眼差しを固定したまま、目前の男が口にした言動を端的に批評した。
「――子供か、お前は」
「うるせえ! 絶対、決勝トーナメントまでリングコスチュームは着ねえ!!」
 そう言いきって、ケビンマスクは足音荒く試合場へと歩き出した。
 しばらくその後ろ姿を眺め――クロエは深く溜め息をついたのだった。



『英国国内予選こぼれ話』(04年9月初出)
書庫にアップ出来ない超短編。ケビン……ガキだ(失笑)
「ほおら、キッド。出来たでー」
 楽しげな声をあげながら、ナツコは中身をくりぬき、目や口の形に穴を開けた南瓜を息子の顔に近づけた。
 迫る南瓜の顔に、きゃー、と嫌がるような仕草を見せながらも、キッドの声音や顔は笑っていた。
「へえ。随分うまく出来たんだな」
 母親と息子が戯れていると、牧場から戻ってきたばかりのテリーが、ナツコの力作であるジャック・オ・ランタンを視界にとめ、そう感想を口にする。
「キッドは何の仮装をするんだ?」
 キッドは、ハロウィンの夜には、エレメンタリースクールの友達と一緒に家々を巡るのだと言っていた。
 その事を思い出し、テリーがくしゃり、と息子の頭を撫でて、顔を寄せて訊ねると、キッドは満面に笑みを浮かべてこう言った。
「パパにはまだ内緒だよ。ねー、ママ」
「そやなー。当日のお楽しみ、や」
 悪戯っぽく笑いながら頷きあう息子と妻に、テリーは笑いながらぎゅっとキッドを抱き締めた。
「パパだけのけ者か? 教えなさい。言わないと……悪戯するぞ!」
「きゃー」
 父親の腕の中に抱きすくめられて、ぐりぐりと頬ずりされ、キッドの口から笑い混じりの悲鳴がもれる。
 そんな二人の戯れる姿に、ナツコも声を上げて笑っていた。



『ハロウィン』(04年10月初出)
時事ネタシリーズ。テリーファミリー、仲が良いっスね(笑)
「やっぱりさー、サンタの方がいいよねー」
「? 何だ、万太郎?」
 赤い衣装を着付け終わったキッドの姿を見ながら。
 本日、何度目かの愚痴交じりの不平を口にする万太郎に、セイウチンは、今日何度も口にした、なだめの言葉を繰り返した。
「仕方ないだよ、アニキ。クジで決まったんだから。それに、けっこう似合ってるだよ? そのトナカイの着ぐるみも」
 言いながら、軽く首を傾げると、セイウチンの頭から赤い三角帽が落ちそうになった。それをあわてて直す。
「そうだぞ、万太郎。サンタだろうとトナカイだろうと文句を言うな」
 セイウチンの言葉に続けて、神妙な面持ちでガゼルマンも万太郎を諭した。
「う〜。そりゃ、セイウチンはサンタだし! ガゼルマンは鹿とトナカイじゃ大差ないだろうけどさ! ボクはちゃんと人型なの! こだわるよ!」
「ガゼルは鹿じゃねえって、言ってるだろうが!!」
 思わず声を荒げて否定するガゼルマンの背後から、凛然とした少女の声が呆れ気味に投げかけられた。
「もう。さっきからうるさいよ、万太郎。それよりも、ホラ。子供達が待ってるからお願いね」
 園舎の廊下で待機していた面々に声をかけてきたのは、凛子だった。
 今日は住江幼稚園のクリスマス会であり、四人の超人達は凛子の依頼で今日のサンタとトナカイの役を引き受けたのだった。
 凛子の登場に、先ほどまでの不貞腐れはどこへやら。万太郎ははしゃいだ声をあげて、凛子の手をとった。
「もっちろん! 凛子ちゃんのお願いなら、ボクちん、たとえ火の中水の中♪」
 暴走気味の万太郎のテンションに、凛子は溜め息交じりに肩をすくめた。
「はいはい。そんなものに飛び込まなくていいから、お願いね。トナカイ君」
 最後の一言は、にっこりと微笑んで、つん、と万太郎の額を指先でつつく。
 万太郎はその笑顔にあっさりとつられた。
「はーい♪」
「……やっぱり、日本女性は――逞しいな」
 その光景に、故郷の母を思いながらしみじみと呟くキッドだった。



『クリスマス』(04年12月初出)
時事ネタシリーズ。これで、チームAHOと凛子ちゃんのありようが定まりました(笑)
「ねー、ママぁ。片付け、明日にしようよー」
 住之江幼稚園と隣接して建つ二階堂家。その居間で、凛子の、珍しく弱腰の声音が上がる。
「駄目よ、凛子。お雛様は三日の内に片付けないと」
 穏やかな口調ではあったが、ぴしゃり、とマリは娘の不平をたしなめた。
「別にいいじゃん。今時、晩婚も、シングルマザーも、離婚や再婚も珍しくないんだからさー」
 反論しながらも、凛子は三人官女の一体を手に取り、紙に包んで箱に収めた。
 母の気にかけているジンクスは凛子も知ってはいるが、今の時代、それ程気にするものでもないだろう、と思ってしまう。
 そんな娘の主張に、マリは首を横に振り、やんわりとこう言った。
「いくら世間じゃ珍しくないって言ってもね。やっぱり親としては娘の婚期が遅れるのは気になるものなのよ」
「うーん……。でもさあ……」
 親心として分からないでもないが、まだ高校生の凛子にはいまだ“結婚”というものは現実感が乏しい。
 だから、愚痴がつい口をついて出る。それでも、手は母親の言いつけどおりに雛人形を丁寧に片付けていた。
 そんな凛子の背中に、さらりと母親のとんでもない発言が投げかけられる。
「それにね。やっぱりお嫁にいくなら早い方がいいと思うわよ? ナツコさんも、ビビンバちゃんも、それにロビンマスクさんの奥さんも大変だったと思うわ。四十歳になってからの初産って負担も大きいもの」
 雛人形のしまわれた箱を片隅に除けながら、マリが何気なく口にした言葉に、凛子は思わず勢いよく振り返った。
 そして、そのまま身を乗り出すようにして猛烈に反論を始める。
「……ちょっと待ってよ、ママ! どうしてそこで例えが超人の奥さんばっかりなわけ!?」
 娘の語気荒い反発に、軽く目を丸くしながらも、マリは不思議そうにこう言葉を返した。
「え? あら、だって、万太郎くんにしろ、ジェイドくんにしろ超人でしょう?」
 当然のように出てきた固有名詞達に、思わず凛子は天井を仰ぎ――そして、拳を握って絶叫にも似た主張を吐き出した。
「ママ!! 言っておくけどね、わたしにはどっちも恋愛対象外なの!!」
 予想外の娘の激昂に、マリは目を丸くしながらもこくりとひとつ頷いたのだった。



『女の子のジンクス』(05年3月初出)
J凛、万凛の方へ捧ぐ。月読はどっち派でもありませんが(笑)折角の桃の節句なので女性陣で。
「――キッド。これは何ですか?」
 床一面に広げられた、筒状の布地を手に取り、チェック・メイトは首を傾げた。
 チェックばかりではなく、ジェイドやガゼルマン、セイウチンも、不思議そうにその布地をつまんで見入っている。
 筒状に縫われたそれ、は、一方は山形に切り取られ。
 そして、その表面には鮮やかにデフォルメした魚の全身図が描き出されている。
 色と大きさだけ違う同じものが、あと二つ。
 それに、根元だけでつながった短冊状のものが輪になった、珍妙な物体もある。
 これらを、やけに丈の長い――先端に風車のようなものが取り付けられた――ポールにつなぎ、立てるらしい。
 何でも、凛子から万太郎が設置の手伝いを頼まれたそうで、その万太郎を手伝う為に新世代超人達は集まったのだが。
 皆、初めて見る不思議な物体に、疑問符を飛ばしていた。
「これは、鯉のぼりというんだ」
 問われたキッドは、その布地――鯉のぼりの鯉を、広げ見せながら滔々と説明を始めた。
「日本では、五月五日は端午の節句と言って、子供の健やかな成長を願ってお祝いをする風習があるんだ。そのお祝いの一環として飾るのが、鯉のぼりだ」
「武者人形も飾ってさ、柏餅を食べるんだよー」
 横合いから、幟をポールに結びつけていた万太郎がはしゃいだ声をあげる。
「柏餅? 何ですか、それは?」
 聞き慣れない単語に首を傾げるチェックの横で、ガゼルマンが別の事柄に疑問を抱き、問いを投げかけた。
「……なあ、キッド。祝いの飾りなのは分かったんだがな。なんで、鯉なんだ?」
「それは、中国の伝承が元なんだ。中国では、滝を泳いで登りきった鯉は龍になる、という言い伝えがあるんだ。確か、それにあやかっていると聞いたことがある」
「え!? そうなの!?」
 キッドが口にした説明に、万太郎が驚きの声をあげた。
 その一言に、キッドのほうが驚愕を表す。
「!! 知らなかったのか、万太郎!?」
「知らないよ、そんなの!」
 驚きあう二人を眺めながら。
「……あのー。日本超人なのは、万太郎先輩で、キッド先輩じゃないですよね……?」
「キッドのほうが日本人っぽいだね」
 呟いたジェイドとセイウチンの言葉に、思わず頷くガゼルマンだった。



『子供の日』(05年5月初出)
どうもうちのサイトの万太郎は、凛子ちゃんにパシられてるもよう。
昔。
ガキだからこその考えなさと愚かさで、あんたに言った一言がある。
今ならば、その言葉がどれ程、あんたの負い目をえぐったか、嫌というほど分かる。
それでも。
あんたに言ってはならない言葉だと解っていてもなお、脳みその一番奥で、くすぶっているものがある。

――もしも。

もし、生まれてくる場所を自分で選べるのならば。
オレはあんたの子供に生まれたい、と思うよ――。



『独白6』(05年9月初出)
書いたはいいが、アップする場所に困っていたもの、その3。
「あっま〜い」
 ほう、と、一息吐き出して。
 万太郎は満面の笑顔をこぼした。
「は〜。あったかいだ〜」
「これは美味しいですね」
 小さなお椀を両手で抱え、ほっこりとした吐息をつくセイウチンの隣では、チェック・メイトが目を輝かせて再度椀に口をつける。
 そんな新世代超人達に、凛子がお玉を置いて、皆に向かってにっこりと微笑んだ。
「みんなお疲れ様。手伝ってくれて助かったよ」
「礼を言われるほどのことじゃないぜ。このくらいたいしたことじゃないさ」
「何言ってるの、凛子ちゃ〜ん。凛子ちゃんの為ならボクちん、火の中水の中♪」
 応じたキッドの言葉尻にかぶさるように、万太郎が浮ついた声音を発する。
「あ、U世!」
 そして、お椀を隣のミートに押し付け、万太郎は凛子に抱きつこうとした。
 しかし、相手もさるもの。
 咄嗟に傍らの鍋の蓋を手に取ると、その蓋が突進してきた万太郎の顔の位置に来るように構えた。
「あつー!!」
 火にかけられていた所為で、すっかり温まっていた鍋蓋と接吻する羽目になって転がりまわる万太郎に、慌ててミートが濡らし布巾を差し出す。
「大丈夫だか、アニキ」
 そんな万太郎の様相に、セイウチンも心配そうに声をかけた。
「ホント、みんなが来てくれたおかげで助かったよ。やっぱり、こういう力仕事は男の子がいないとねー」
 床に倒れ付す万太郎を故意に無視し、凛子はにこにこと笑顔を浮かべながら言葉を続けた。
 例の如く例のように、凛子の依頼を受けた万太郎に引っ張り込まれたいつものメンバーが、住之江幼稚園に呼びつけられたわけで。
 今日の用件は餅つき。
 初体験の面子が大部分ではあったが、そのたどたどしさが逆に園児達の笑いを誘う結果となり、冬の催しは盛り上げることが出来た。
 その、ついた餅で作ったおしるこが、本日の報酬となったわけだ。
「役に立てたのなら、オレ達も来た甲斐があったよ」
 笑みを返すジェイドの隣では、チェックがつきたての餅を頬ばっている。
 そして。
「ぐうう……」
「どうした、ガゼル?」
 妙にくもぐったガゼルマンの声に、キッドが振り返ると。
 噛み切れずに伸び続ける餅と格闘するガゼルマンの姿がそこにはあった……。



『汁粉』(06年1月初出)
相変わらず凛子ちゃんにパシられてるチームAHO+α(笑)
 室内の状態を視界におさめ。
 クロエは、小さく嘆息をもらした。
 そして、無言のまま踵を返し――数分の後、現状を改善する為の道具を手に部屋の中へと改めて足を踏み入れた。
 迷いなく歩を進め……部屋のほぼ中心に無造作に置かれたソファの傍らで立ち止まった。
 それから。また、溜息。
「……体調管理もトレーニングの一環だぞ」
 返答が返ってこないことを承知した上で、ソファの上にある――否、いる“大物”を見下ろしながら低く呟きこぼす。
 かなり大型のソファだが、その“大物”と比較すると小さく見えかねない。
 そもそもからして、その“大物”にソファに収まる気がないのか、はみ出しているというか、転げ落ちないのが不思議な体勢なのだ。この位置で落ちないとは、いっそ賞賛に値する絶妙なバランス感覚だ。まして。
 それが、眠った状態でならなおのこと、大したものだ。
 だが。
「眠るならせめて髪くらいは乾かせ、ケビン」
 そう呟いて。
 クロエはその場に片膝をつき、持ってきた道具――バスタオルを広げると、肘掛の上に置かれた頭部にそっと被せた。そして、その眠りを妨げぬよう配慮しながら、未だ水滴を滴らせる髪をタオルで軽く抑えるようにして水分を拭い取る。
 けれど、うつ伏せの状態で肘掛に顔を埋めて眠りこけるケビンに覚醒の様相はない。よくぞ、これだけ眠りづらい環境で爆睡出来るものだと、見当違いの感心をしてしまいそうだ。
 無論、これが“心地よい熟睡”ではなく“正体を失って眠りこける”であることに気付いているから、実際には感心などしはしないのだが。
 クロエがケビンの“押しかけコーチ”になり、まだようやく半月だ。だが、ケビンが自己流で行っていたトレーニングはオーバーワークの上、効率がよいとは言い難いことを知るには、一日あれば事足りた。しかし、“軽い運動”など“運動”とも思っていないケビンから“過剰なオーバーワーク”を止めさせることは容易いことではなく。同時に、短期間で目指す高みに押し上げるには凝縮したトレーニングメニューが必要であり。結果、毎夕、ケビンは体力を使い果たして倒れこむように眠りこけることとなるわけだ。
 それは仕方がないのだが……。
 せめて、シャワーの後、髪や体は拭いてもらいたいものだと思う。
 いくら超人とはいえ、風邪を引かない保証はなく――体調不良によって時間を失うことが後々如何に痛手となるか、分からぬわけでもあるまいに。
 それを指摘すればしたで、不満そうに顔を背けるのだから、困ったものだ。
「……まったく、君は……」
 溜息混じりに呟いて。
 “クロエ”らしからぬ口調であったと気付き、即座に口を閉ざす。
 やや強引にコーチになり半月。
 いまだ反発心は残るものの、ケビンから妥協を勝ち得始めている。それが緊張感を緩ませでもしたか。
「いかんな」
 だが、今はまだ、気付かれてはいけない。悟られてはいけない。
 自らにそう戒めて、心中で“クロエ”の仮面を被りなおす。
 そうして、無言のまま、ケビンの髪の湿り気を取り除く作業を続行するのだった。



『三ヶ月のある日』(07年5月初出)
“クロエ”だろうと“ウォーズさん”だろうと、ケビンにとって彼はこういうポジションで(笑)
 ――その姿は。
 少し、哀しく思えた。

 自分の身体と向き合う覚悟を決め、故国にある施設で検診を受けるようになってから、幾年月が過ぎた頃のことだった。
 施設内で、その少年と初めて出会ったのは。

「……大丈夫、かい?」
 どうにも足取りが覚束ない様子を視界の隅に認め、しばらくその後ろ姿を視線で追っていたウォーズマンだったが。
 そのシルエットが大きく揺らいだのを見、慌てて駆け寄り、手を伸ばした。
 転ぶ寸前のところを抱きとめられ、その少年は顔をあげて、礼を述べた。
 その、上げられた顔を見て、ウォーズマンは驚き……、同時に、彼の足取りが覚束なかった理由を納得した。
 少年の両眼は、包帯で覆われていたのだ。
「目を、怪我したのか……?」
 厳重に巻かれた包帯に、思わずこぼれた呟きに、少年は、いいえ、と首を横に振った。
「ソナーを埋め込む手術をしたばかりなので、しばらく包帯を取れないだけです」
 年齢不相応の、固い口調で事務的にそう告げた少年に、ウォーズマンは一瞬、言葉を失った。
「……どうして……」
 そして、我知らずこぼれる、唖然とした呟き。
 何故、折角生まれもった生身の器官を捨てて、機械に置き換えるのか、と。
 覚えた疑問は、まだ若い彼には、すべては伝わらなかったらしい。
「どうして、とは?」
 逆に訊き返され、刹那、返答に窮する。
 それでも、何とか言葉を探して、ウォーズマンはゆっくりと言葉を紡いだ。
「君は、どうして、そんな大掛かりな手術を受けたんだ? 大変な手術だっただろうに」
 言葉を選んで、問いかけると、少年は、毅然と言いきった。

 強くなりたいのだ、と。

「我がロシアの威厳を損なわぬような、立派な超人になり、祖国の為に闘えるようになりたいのです」
 望む未来の為なら、どのような苦難も進んで受けるのだと、胸を張って語る少年の姿は、誇り高く見えはしたけれど。

 けれど。
 少し……、ほんの少し、見る側の胸が痛んだ。

 ――その少年の名を、ウォーズマンが知るのは、何年も後。再開した超人オリンピックでのこと。
 機械化を受け入れ、リングの上で祖国の威厳を担って戦う姿を、ウォーズマンが見るのも。
 彼の望みを折ってしまうことになるのも、まだ、未来の話。



『戦士の覚悟』(09年6月初出)
イリューヒン戦での反応から個人的に知っていてもいいかな、と思った。37巻で公式のウォズさんの出生を知り、痛さ倍増(汗)
「うわあ!!?」
 絶叫と共にはね起き。
「……あれ?」
 ミートは暗がりの室内に違和感を覚えて、きょろきょろと周りを見渡した。
 ちゃぶ台ではなく、ダイニングテーブルが置かれ。
 昔なつかしのダイヤル式ブラウン管テレビではなく、だが、薄型液晶テレビでもなく。
 本棚はなく、代わりにあるのは、パソコンとプリンター。
 つまりは、かつて、キン肉マンことスグルと暮らしていた時分の調度ではなく、U世こと万太郎との生活で揃った家財道具が置かれていた。
「と、いうことは……あれは夢?」
 超人保存装置から目覚めてみれば、そこは、超人達の性別が入れ替わったパラレルワールドだった。
 と、いう事態は、別次元のミートとの精神交換によって迷い込んだ異次元ではなく、ただの夢だったのか。
 拍子抜けするような、安堵するような、心持ちで、ミートは、ほう、と吐息をこぼした。
「そう、ですよね。パラレルワールドだなんて、そんな、非現実的な」
 ははは、と苦笑いしながら、女性版の超人達を思い返す。

 屈託がなさ過ぎて目が離せない王子ならぬ王女だとか。
 親友に対する好意が行き過ぎてレズっぽかったテリーマンガールだとか。
 クールビューティーかと思ってみれば意外と天然だったレディ・ロビンだとか。
 まさかのロリ系だった拉麺娘だとか。
 女学生(学校の宿題がどうのと言っていたし)のフロイライン・ブロッケンだとか。
 豪快姐御肌のウルフマン(みっちゃん)だとか。
 空回り系ドジっ子属性だったウォーズマン・ジェーブシカだとか。
 他にも色々。

 まあ、みんな、ぶっちゃけ、ぶっとび過ぎだったよね、うん。
 などと、考えていたら。
「も〜ミート、うるさいよ〜。なに、まだ二時じゃん」
 寝ぼけ声での抗議が、隣からあがった。
 その声に、ミートは隣を振り返り。
「あ、すいません、U世……いいいいいいいい!!!?」
 先を上回る悲鳴を上げた。

 今、新たなるパラレルストーリーが幕を開ける……のか?



『ゆめ、またゆめ?』(11年1月初出)
『キン肉マンレディ』ネタを織り交ぜてみた。←実は『レディ』気に入ってる。女体化は結構好きです(笑)

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