――何故ですか。 どうして、ですか。 オレの何がいけなかったのですか。 教えて下さい。 お願いです……パシャンゴ師匠――。 ……万太郎のマッスルミレニアムによって負った傷は、なおも痛みを訴えていたが。 オレは、試合会場を去る足を止める気にはなれなかった。 一刻も早く、この場を去らなければいけない、と思った。 そうでなければ、オレは……オレは正義超人なのだという自意識を捨て去ることが出来ないと思った。 その自意識にしがみつけばしがみつくだけ、オレは己が苦しむだけだと、知ったのだから。 だからこそ、例え生皮をはがす痛みを覚えようとも、オレはそれを捨てねばならない。 ……誰も、オレを正義超人として認めてはくれないのだから。 オレの師、そして養父でもあった人ですら…………。 「ぬ……主は正義超人ではないな……」 スパーリングの最中での出来事だった。 師の攻撃を受け、――己自身存在を忘れていたオーバーボディが破損したのは。 攻撃を返され、反撃を喰らい、血を吐き出しながら……師は苦々しげにそう言った。――十五年間の享受の賜物か、返し技にいたるそれら一連の動作は考えるまでもなく身体が反射的に動いていた。 師のその言葉と、オレに向けられる……まるで穢れたものを見るかのような眼差しに、ただ困惑し、オレは必死に師の言葉を否定した。 「師匠 「ぬ……主はワシのかわいい弟子じゃ……。し……しかしその人類のためにはならん忌わしい正体を知ってしまったからには――。ワシは正義超人として主を倒さねばならん!」 その言葉と眼差しには、それまで向けられたこともない――はっきりとした敵意と害意があった。 言うが早いか、師が繰り出したローリングソバットをオレは避けきれなかった。 師から、そんな形で戦いを挑まれるとは思いもよらなかった。 だが。 続けて固められたギロチンチョークは――十五年の師事の間、何度も繰り返された、技抜けと返し技の動作は――オレには考える間さえ必要なく、技を解き、反撃に移行出来た。 師の腕から首を抜き、オレは師の両腕をダブルチキンウィングに固め――そのまま、師とともに作り上げた至高の技に――トーチャー・スラッシュを師に喰らわせる、それらの動作は、オレにとっては反射も同然に身体が動くものだった。 己の手で師を引き裂き、オレは、それ以前の師の否定もあいまって、酷く動揺していた、と思う。 「パシャンゴ師匠 その瞬間は、無残な姿に変わり果てた師が、己の手でそうなったのだと、分からなかった。 「こんな、真っ二つになっちまって……っ! 誰か、医者 今となっては、信じてはもらえないかもしれないが。 その時のオレのその言葉は、嘘偽りではなく。 本心から、師に死んでは欲しくなくて――医者を……その到着を待ちわびていた。 だが。 師は……オレの足を掴み、やはり敵視を向け、苦しい息の下から――それでも、オレを否定なさった。 「ぬ……ぬしのような、れ……冷酷で無頼な悪党は……。決して野に放しては、な……ならぬ」 何故ですか、師匠 オレはあなたの弟子では――正義超人ではないのですか? 十五年間、あなたの元で正義超人として修行を積んできたではありませんか!? それでも……それでも、両親が悪行超人ならば、それさえも意味を成さないというのですか? オレは……悪行超人の血を持つ者は、赤子の頃からあなたの元で育とうとも、あなたの弟子として認めてはもらえないのですか? あなたの教えを守り、あなたが伝えてくれた技を反射になるまでこの身に染み込ませ、あなたの言葉のすべてを忘れぬよう刻みつけても、この身を流れる血潮を、血肉を変えぬ限り、正義超人にはなれぬのですか? オレは、選んで悪行超人の両親の元に生まれたのではありません。 オレは――あなたの教えに沿う正義超人になりたいと……誰よりも正義超人らしくなりたいと願っていたのです。 なのに、何故。 誰より慕い、敬うあなたに……それほどまでに否定され疎まれねばならないのですか!! オレの父母が悪行超人だからですか。 オレがその血を御しきれなかったからですか。 どうすれば。 一体どうすれば、オレはあなたに、過去そうであったようにあなたの弟子として……正義超人として認めていただけたのですか。 教えて下さい。 お願いです……パシャンゴ師匠 了
2004年文月中旬 |
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