肉ゲー劇場番外編・『決裂、超人師弟コンビ!?』
 ――それは。
 イレギュラーな時系列での世代を超えた実戦スパーリングも、一時中断となり。
 夕食後、伝説超人と呼ばれる面々――より正確に称するならば、旧アイドル超人軍団だとか、超人血盟軍だとか呼ぶべきであろう――が、酒席を囲んでいた場でのことだった。
 普段、旧正義超人軍団の面々は、ロビンマスクを食事や酒の席に誘うことは無い。
 キン肉マンのように口部が開閉可能ならばともかく、ロビンマスクの場合、かろうじて目元の判別が出来る程度しか露出が無い。まして、本人も何があろうとも素顔を晒そうとはしない――別にキン肉マンとは違い、命を絶たねばならないわけでもないのに、である。
 無理に同席させれば、――ちょうど今のように――目と口だけがでる布製の覆面をつけてくる。
 これは例え仲間でも、ちょっとご一緒したくない。現に、先程の浴場でも、アシュラマンがロビンマスクのことを珍獣でも見るかのような、やや冷たい一瞥を向けていた。当の本人が気付いていないのが、不幸中の幸い、であろうか。

 さて。
 その、珍しい酒の席で。
 珍しい同席者が、少々悪酔いしてしまったことから、恐怖体験は始まったのだった…………。



 最初のきっかけは、酒盃もかなり重ね、そこそこ酔いも回ってきていた、そんな頃合でのことだった。
「まったく! あいつは父親を一体なんだと思っているのだ!! 大体、悪行超人をやめたというのならば、ファイトスタイルも正義超人らしく改めるべきであろう! あれでは場末の喧嘩ではないか!! チンピラではあるまいに、どうしてああも素行が悪いのだ!! 昔は親の言うことを素直に聞いていたというのに――すっかりひねくれおって……!」
 ぐちぐちと。
 いまだ続行中の父子断絶に不満満載のロビンマスクの口から、酒気交じりの愚痴がとめどなく吐き出されていた。
 実はこの男、かなりの絡み酒である。
 普段、紳士然としている分、酒が入ると性質が悪くなるタイプだった。
「なにを言うとるんじゃ、ロビン。ケビンは立派に育っとるではないか。のう?」
 キン肉マンから同意を求められ、ラーメンマンは首を縦に振る。
「ああ。立派なチャンピオンだな」
「根は充分素直だと思うぞ、オレは」
 ラーメンマンの端的な意見に、ブロッケンJr.も頷き、同意を表した。
「素直だと? どこがだ! わたしの言葉にいちいち逆らいおって……ええい、不愉快な!! わたしが厳選した花嫁候補のどこに不満があるというのだ!!」
「……いや、ロビン。それはケビンも反発して当然だと思うぜ」
 ぽりぽりと頬を掻きながら、ウルフマンがそう言うと、テリーマンも大きく頷いて賛同を示した。
「そうだ。結婚は心から好きあった者同士ですることであって、親が決めるものじゃないぞ」
「確かに、先輩の言うとおりズラ。周りがいくら勧めても当人同士が嫌がっていたら話は進まないズラ」
 テリーマンの力説に、ジェロニモも納得したように頷いた。
「つーか、お前の場合、干渉し過ぎじゃねえか?」
 からかい交じりの笑みのにじむ声音でバッファローマンが軽く揶揄る。
「何を言うか! 親には子供が誤った道に進まぬよう、監督し指導する義務がある!! 人生の先輩でもある親の言うことに子が従うのは当然のことであろうが! いや、一家の長たる父親に従うことこそ、家庭内の秩序を守ることでもあるのだ!!」
 ――実に封建的家父長風な言い分に、同席の仲間達は微妙な苦笑をこぼした。
 時代遅れどころか、人権運動家がこぞって反論しそうなご意見である。
 酒気の所為もあるのか、論法も若干、理が通っていない気もしないではない。
 しかし、酔いが回っている所為か、ロビンマスクは仲間達のなんとも言いがたい空気に気付いていない様子で――素で気付いていないのならちょっと情けない――さらにまくし立てた。
「まったく……! わたしの息子だというのに、どこをどう間違えばああ育つのだ! 本来ならばあれとは真逆の人となりに育つ筈だったというのに……!!」

 その一言が――導火線の火をつけた。

 酔っ払いのとめどない愚痴に、周囲の仲間達が溜め息交じりの苦笑をこぼした、まさにその瞬間だった。
 それまで言葉を挟まなかったウォーズマンが、ゆっくりと言葉を発したのは。
「……いい加減にしろよ、ロビン」
 静かな――決して荒げられてはいない、静かな声音だった。
 だが、逆に――その抑揚の無さが不気味だった。
 あまりの冷気に、周囲の面々は一気に酔いが冷めたほどだ。
 その異様な気配に、キン肉マンが怯えたように隣に座るテリーマンに擦り寄る。そのテリーマンも、反射的に手でキン肉マンを庇うように傍に引き寄せた。
「あ。酒が足らねえな。取ってくるぜ」
「ああ、そうだ。つまみももう少し要るだろう」
 ただならぬ空気を察し、さりげなく席を立つブロッケンJr.の言葉尻に、ウルフマンも言葉を重ねて腰を上げた。
「先輩方! オラも行くズラ!!」
 立ち上がった二人を追いかけるように、ジェロニモが慌てて続く。
 そうやって、それぞれが初めて直面する脅威からの逃走を図る中で。
 ウォーズマンの隣に座っていたバッファローマンと。
 ウォーズマンの真正面に座っていたラーメンマンは、その席次の関係から、完全に逃げ遅れてしまった。
 日本は亜熱帯気候だというのに、そのテーブルの周辺だけは、完全にツンドラ気候と化している。
 その、冷気を発生させている張本人は、普段からすればありえないほどの感情のない静かな眼差しを、斜め向かいに席についていたロビンマスクに向けると、ゆっくりと言葉を続けた。
「――ロビン。ケビンの父親はあんただろう? その父親であるあんたが、どうしてそんな、ケビンを否定するようなことを言うんだ?」
 口調は常とは変わらないが、抑揚は完全に常と異なっている。
 皆無といっていいほどの抑揚のなさが、感情の在り処をあからさまにしない分、逆に――異様な雰囲気をかもし出していた。
 しかし、常から自分の正義を信じて疑わない、ある意味では実に固い信念を持つ英国紳士は――もとい、見事に酔いの回りきった酔っ払いは、その冷気に気付いていないらしく、憤然と言い返した。
「何を言う! 父親だからこそ言うのだ!! 」
 呂律は回っているが、話している内容は筋が通らないこと甚だしい。
「ロビン。オレは逆に問いたい。息子の今現在のあり様を否定することが父親の務めなのか?」
 常のウォーズマンらしからぬ、冷然たる言い様に、軽い驚きをこめてバッファローマンが一息口笛を吹いた。
 そして、ロビンマスクの隣ではラーメンマンが頭痛を堪えるように額を抑えて俯いていた。



 一方その頃。
 同じロビー内にある別のテーブルでは。
「おわあ……。おっそろしいのう」
 隙を見てテーブルから逃走を果たしたキン肉マンが、がたがたと肩を震わせながらアシュラマンの座るソファの後ろへ回りこんでいた。
 震えるその肩に、テリーマンがなだめるように手を置く。
「いやあ……。ウォーズマンってああいう怒り方するんだな。初めて見たぜ」
 既にこちらのテーブルに避難していたブロッケンJr.が首を横に振りながら、しみじみと感想を漏らす。
 その言葉に、ザ・ニンジャが苦笑しながら応えた。
「普段怒らぬ者ほど、ひとたび怒れば手がつけられぬものよ」
「確かに。特にああいう、静かに怒る奴ほど性質が悪いからなぁ」
 うんうん、とウルフマンも頷く。
「怖いズラ……」
 がたがたと震えるキン肉マンの隣で、ジェロニモもぶるり、と身を震わせた。
 そんな正義超人達の怯えようを、カラカラとブラックホールは笑い飛ばした。
「面白いではないか。他人の諍いは、被害を受けぬところで見ている者にはていのよい見世物だからな」
「時と場合と諍いの内容にもよるぞ」
 絶妙の間でアシュラマンのきりかえしが入る。
「――――何があったのだ?」
 丁度そこへ、席を外していたペンタゴンが戻ってきた。
 ロビーのただならぬ様相に、冷や汗混じりに首を傾げ――顔をゆっくりと、冷気の発生源へと向けた――。



 その、霊気――もとい冷気の発生元では。
 亜冷帯気候から寒帯気候へと変化しつつあった。

「――ロビン。あんたがいつもそういう調子だから、キャサリンさんがアリサさんに会う度、離婚を勧めるんじゃないのか?」
 感情をまったく出さず、淡々と書類でも読み上げるような口調でウォーズマンがそう言うと。
 身を乗り出すように机に手を置き、ロビンマスクは猛然と言葉を返した。
「何故、そこでケイトが出てくる!? 第一、あの娘はわたしが何をしようと否定しかせんではないか!?」



「――キャサリンさんって誰ズラ?」
「ロビンの妹さんじゃ。バッファローマン達との戦いの後、一度だけ会うたことがあるんじゃ」
「美人だったが、結構……気が強そうだったな」
「なにせ、兄との再会最初の行動が、花壇のレンガで横っ面引っ叩く、だったからな」
「その時の台詞もふるってたぜ。鉄仮面を素手で殴ったら自分の手が痛いじゃないか、だったもんな」
「殴った理由も、堂々としたものだったぞ。自分の不始末で妻に苦労をさせた挙句、その妻を自分勝手な理由で捨て、世間と周囲に多大な迷惑をかけたような男に、文句を言う権利なんて1ミクロンだってありはしない! ……だそうだ」
「血がつながってなけりゃあ、重りをつけてテムズ河に放り込んでやるところだ、とも言ってたぜ」
「……まあ、アリサさんとは仲が良さそうじゃったのう」
「――。ふむ。血のつながった妹御にそこまで疎まれればいっそ清々しいな」
「――一体、あの男は何をしでかしたのだ?」
「フフフ……。ますます面白いことになってきたな」
「――趣味が悪いぞ、ブラックホールよ……」



 しかし、今日の弟子は、師の激昂を冷ややかに受け流し、平淡に言葉をつないだ。
「ロビン。一度、どうしてキャサリンさんがあんたに対してあそこまで評価が辛いのか、考えてみるべきだと思うぞ。悪いが、キャサリンさんの言い分は、決して一方的な非難とは言い切れない点も多いと思うぞ。彼女は叔母として、心底からケビンを案じている」
「まあ、確かにケビンの言いようから察するに、子育てっていうよりゃ、生育実験って気はするな」
「バッファローマン」
 からかい半分、同調半分に混ぜ返すバッファローマンの一言を、ラーメンマンが短くたしなめる。
 そのラーメンマンに対し、ウォーズマンは小さく首を横に振った。
「いや。ケビンが家出した後、キャサリンさんに会った時に彼女もそう言っていた。彼女はこうも言っていたぞ、ロビン。母親であるアリサさんがどう諭しても、あんたは聞く耳も持たなかったと」
 言葉の後半は、顔をロビンマスクの方へと戻し、やはり淡々とつむぐ。
 激昂した者同士の言い争いはヒートアップするものだが、片方が冷淡の場合、感情的になっている方はいっそう癇に障るものだ。
 今、このテーブルを支配する空気はまさにそういうものだった。
「何を言うか! 超人には超人の育て方がある!!」
 吼えるように言い放ったロビンマスクに、ウォーズマンは、感情の一切表れない平淡な口調でこうきりかえした。
「その前に、ケビンは子供だ。そして、母親であるアリサさんにも子育てに意見を言う権利がある」
「正論だな。ウォーズマンの言うことのほうが一理あると思うぜ」
「バッファローマン。お前は仲裁したいのか、混ぜかえしたいのか、どちらだ?」
 うんうん、と腕を組んで頷くバッファローマンに、ラーメンマンは細い目を更に細めて低く呟く。
 そのラーメンマンの微量な非難交じりの問いかけに、バッファローマンは軽く片目の端を上げて、常とは変わらぬ口調でこう答えた。
「別にどっちでもないぜ? ただ、ウォーズマンの言うことの方が理屈が通ってると思うだけだけどな」
「……それはどういう意味だ、バッファローマン。わたしの言い分は筋が通っていないとでも言いたいのか」
 不快指数100パーセントの怒気を撒き散らし、肩を震わせながらロビンマスクが、バッファローマンの発言に苦情を言い立てる。
 その、妖気ともいってもいいような怒りの気配を気にもとめない風体で、バッファローマンは軽く首を傾げて、やはり平常の口ぶりで明瞭に口を開いた。
「いや? 少なくとも、万人の共感を得られるのはウォーズマンの言い分だろうな、とは思うけどな。まあ、どっちの方が父親らしいかっていや、こっちだろうけどよ」
 そう言って、親指で傍らのウォーズマンを指し示す。
 そんなバッファローマンの言い分に、ロビンマスクは天井に向かって怒りもあらわに吼えた。
「アレの父親はこのわたしだ!!」
「そう言うのならば、少しは父親の愛情をもってケビンに接してくれないか?」
 その怒声に。
 怯むどころか、なおいっそう冷淡なきりかえしが即座に入る。
 さらり、とウォーズマンの声に乗せられた一言は、ざくり、と周囲の空気を斬り裂いた。



 ――氷の精神、インプット完了!?
 その時、外野の心は一つになった。



「……どういう意味だ、ウォーズ。わたしに父親の情がないとでも言いたいのか?」
 時間の経過と共に、怒りのゲージが高まる一方のロビンマスクが、怒気に声音を震わせながら、ジロリ、と弟子を睨みつける。
 既に彼の理性は、屋上に逃避し、そこでフレンチカンカンでも踊っていることだろう。
 その剣呑な視線を。
 こちらは時が経つにつれ、普段の温厚さはなりを潜め、絶対零度の冷淡さをまといつつあるウォーズマンは、あっさりと受け流した。
 弟子の方も、表面に出ていないだけで、かなり平常心を失っていると思われる。
「少なくとも、ケビンはそう思っているぞ。ケビンは今まで一度も父親の愛情を与えられたと感じていない。それがこの三ヶ月、傍にいてオレが感じた印象だ」
 感情の起伏もなく、淡々と言葉を重ねる弟子に、火焔を吐き出しそうな勢いで、師は幾度目かの怒声をあげた。
「与えていたに決まっているだろうが!! 父として息子を案じればこそ、敗北の屈辱を知らずに済むよう、全霊をかけて育てたというのに!!」
「ロビン。訓練に手を抜いてはいけない、という点は同感だ。だが、当時のケビンの年齢を考えてはあげられなかったのか? オレの時とはまったく条件が異なると思うぞ」
「あー。ロビン。誰がどう聞いても、父親らしいのはこっちの発言じゃねえか?」
「だから、話をややこしくするな、バッファローマン……!」
 再度のバッファローマンの横槍に、ラーメンマンの焦りもいっそう深まっているようだった。
「甘やかすだけでは、ろくな奴に育たん!!」
「厳しくするだけで、血のつながった親子が絶縁状態になるのはいいのか?」
 再び、淡々とした口調できつい意見が飛び出す。
 論争はヒートアップしていながらも、室内の空気は寒帯気候どころか、絶対零度にまで下がりつつあった。
 流石に、別テーブルの外野達が超人師弟コンビの断絶を案じ始めた、その時。
 植物すら枯れ果てそうな冷気の停留を打ち払う一筋の光明が差した。

「――っ! お前もいい加減にしないか、ロビン!!」
 ガツン!!
 突然の、ラーメンマンの一喝が上がったかと思うと、間髪入れず、テーブルに何か硬いものが叩きつけられる音が響いた。
 それは、ロビンマスクの後頭部を掴んだラーメンマンが、そのまま勢いよくロビンマスクの頭をテーブルに押し付けた音だった。
「何をする!? ラーメンマン!!」
 反射的に上体を起こし、ロビンマスクはラーメンマンに食ってかかる。
「黙れ、ロビン。いいから謝るんだっ……!」
 トレードマークといっても過言ではない細い目に、剣呑な光を宿して、ラーメンマンはロビンマスクの非難の言葉を横合いに投げ捨てた。
「何故、わたしが謝罪せねばならんのだ!?」
 納得いかない、とばかりに喚きかかるロビンマスクに、ラーメンマンは無情、といってもよいほど冷たく言い放った。
「客観的に見て、お前に非があるからだっ……!!」
 そう言い捨てるが早いか……。
 バキッ!! ゴッ!! メリ……!!
 再び、テーブルの天板にロビンマスクの鉄仮面が叩きつけられる音がロビーに鳴り響いた。――と、いうよりは、力を入れすぎた所為で、テーブルが割れ、そのまま床に叩きつけられた音、であったが。
 ロビンマスクをロビーの床に沈めたラーメンマンは、ウォーズマンの方へと向き直す。
 そして、座ったまま頭を下げてこう言った。
「ウォーズマン。酔っ払いの戯言と思って忘れてやってはくれんか? この話題はあまり続けぬほうが良かろう」
「――いや、オレも言いすぎた。少し飲みすぎたようだ。すまなかった」
 ラーメンマンの言葉を受けて、少しばつが悪そうに、ウォーズマンもそっと頭を下げ、謝辞をあらわした。
 やはり、口調は平静だったが、本人的にはかなり頭に血が上っていたらしい。
 多少の自己嫌悪もあるらしく、どことなく所在無さげに視線を落とし――そっと立ち上がった。
「少し、頭を冷やしてくる」
 そう言うと、同席の二人(一名、気を絶している為)に軽く目礼して、エレベーターホールの方へときびすをかえす。
 そこで、初めて他の面々が別のテーブルに移動していたことに気付いたらしい。
 ひとかたまりになった仲間達の姿に、軽く驚いたように目を見開き――それから、申し訳なさそうに目礼して足を一歩進めた。
「ウォーズマン。あんまり気にすんなよ。どうせ、明日になりゃ忘れてると思うぜ」
 その背中に、バッファローマンが悪戯っぽい口調で軽く声をかけた。
 その呼びかけに、ウォーズマンは立ち止まり――目を細めてこう応えた。
「――すまない」
 一言、謝辞を述べ、ウォーズマンはそのままエレベーターの方へと歩き去っていってしまったのだった――。



「――はあ、よかったのう」
 取り敢えず、最悪の状態にならなかったことに安堵して、キン肉マンは肩で大きく吐息をついた。
 こじれていく一方の話を、心配しながら見守っていた外野の面々も、ともあれ一安心、といったところか。
「ラーメンマン。本日の殊勲賞、決定だな」
 誰ともなく、力ずくで話題を強制終了させたラーメンマンの労をねぎらう。
「でも、オレもバッファローマンの意見には賛成だぜ。確かにロビンの方が悪い」
「お前、本当にロビンに対する評価が辛いな、ブロッケン」
 さらり、と明瞭な口調で辛口評価を下すブロッケンJr.に、ウルフマンが軽く目を見開いて、嘆息交じりに呟くと。
 ぼそり、と後をつなぐ呟きが続いた。
「――いや、ロビンマスクの本性は悪だと思うぞ」
「ほう? 珍しいな、従兄弟殿。お前が他人を非難するようなことを言うとは?」
 ニンジャやアシュラマンの傍にいたブラックホールがそれを耳ざとく聞きつけて、そう揶揄る。
 すると、ブロッケンJr.がやけに力を込めて、ペンタゴンの一言を擁護する言葉を発した。
「いーや。ペンタゴンの言うとおりだぜ。だってよ、ザ・ビッグファイトの後、ウォーズマンはラーメンマンやペンタゴンやティーバックマンに謝りに行ってたけどな。ロビンはラーメンマンやキン肉マンに一度も謝ってないぜ。思いっきり殺人教唆してたってのにな」
「――ブロッケン。お前、ホントに好きだな、ラーメンマンのこと……」
 必要以上に――特にラーメンマンの個人名のところに――力のこもった力説に、ウルフマンの呆れ半分の感想がこぼれた。
 そんな様相を、笑い声を噛み殺しながら見ていたバッファローマンが、面白そうに片目を閉じて、不意にこう言った。
「ま、どうせ、明日になりゃ、キレイに忘れてるだろうよ」
 言いながら、床に沈められたロビンマスクを軽く指し示す。
 その一言に、思わずバッファローマンの方を振り返った旧アイドル超人の面々は、苦笑交じりに顔を見合わせあった。
 確かに、今までの経験から言えば、今日の酒量ならば明日にはロビンマスクの記憶から今晩の出来事は奇麗に消去されているだろう。
 それに、ウォーズマンもこういった類の諍いを後々まで引きずる男ではない。
 今晩のことは、明日の陽が上がる頃までに、皆で忘れるに限る。
 喧嘩はその場で終わらせて、後に引きずらない。
 それが、彼らなりの友情を長続きさせる秘訣といえた。
「まあ、これだけは忘れん方がよさそうじゃがのう」
 ふと。
 ポツリ、と呟いたキン肉マンの言葉に。
 誰からともなく、言葉が重なった。
「「ウォーズマンを怒らせてはいけない」」
 異口同音に、奇麗にハモったその一言に。
 旧アイドル超人の面々は、一瞬互いに顔を見合わせ。
 やはり、誰からともなく苦笑混じりに忍び笑いをもらしたのだった――。



 ――イレギュラーの場でおこった、その諍いは。
 皆の予想通り、翌朝、二日酔いの頭痛に悩む英国紳士の記憶には残っていなかったことだけ付記しておく。






2005年弥生末日

Go To 非情階段。』の空耳さまのリクエストで「ギャグ超人師弟の喧嘩に巻き込まれた2000万パワーズ」。
「無理だ!」と当初は悲鳴をあげたものですが、とりあえずなんとか?(苦笑)
ロビンを書く時は主観が表に出ないよう心がけているのですが、客観的に書けているかどうか、いつも不安です(汗)
長らくお待たせいたしました。空耳さま、どうぞご笑納下さいませ。
+ →
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送