目を丸くして。
 足を止め、驚きの表情で見返す従兄弟の様相に、同じく立ち止まったブロッケンマンは軽く眉根を寄せることで、内心の疑念を表現してみせた。
「……すまない、ブロッケン。今、なんて言った?」
   瞬きもせず目を見開いたまま問い返す、親友でもある従兄弟に、ブロッケンマンは端的に――律儀に、同じ言葉を繰り返した。
「ゾフィーが妊娠したそうだ。来年の四月か五月には子が生まれるらしい」
 従兄弟に、ブロッケンマンの妻であり、親友の双子の妹でもある女性の懐妊を報告しただけのつもりだったのだが。
 何故、これほど驚いているのだろう、己は何か可笑しいことでも言っただろうか、と、ブロッケンマンは無表情のまま、内心首を傾げた。
 こぼれ落ちんばかりに瞠目してブロッケンマンを凝視したまま身動ぎもしない、従兄弟の顔を静かに見返す。
 改めて見ると、やはり兄妹だ。そっくりとまではいかないが、なんとはなしに似ているな、とか。
 やや垂れ目気味の目元だの、わずかに黄味を帯びる薄い髪色や柔らかそうな髪質だのは、妻と同じだな、とか。
 それでも、瞳の色と性別が違うから幾分印象が異なるな、とか。
 取り留めのないことを考えつつ。
 視線をブロッケンマンに固定したまま硬直した従兄弟に、真っ直ぐに眼差しを向け返しながら、ブロッケンマンは従兄弟が活動を再開するのを静かに待った。
「今月、十九になったばかりなのに、もう、伯父さんなんだ……」
 呆然と。
 呟くようにそう言って吐息をついた従兄弟の弁に、ブロッケンマンは軽く片方の眉根を上げた。
「? 何か、問題があるのか?」
「問題はないよ。ただ――突きつけられた現実にちょっと戸惑ってるだけで……」
 そうだよね、結婚するってことは子供が出来るってことだよね。
 どこか、ままごとみたいな新婚生活を想像していたのかもしれない。
 ――などと。
 自分に言い聞かせるように、ぶつぶつと呟く従兄弟に、ブロッケンマンは小さく首を傾げた。
「――わたしは、それほど驚くことを言ったのか?」
 予想外な従兄弟のリアクションに、小首を傾げるブロッケンマンに、従兄弟はぽつりとこぼした。
「……いや、なまじ兄妹みたいに育ったから、ね」
 そんな報告を受ける日が来るとは思いもよらなかったのだと、若干視線を泳がせながら告げる従兄弟の様相に、ただ、首を捻るばかりのブロッケンマンだった。



『小さな昔話(独逸編)』(09年1月初出)
公式のブロッケンマンの年齢は発表されていない筈なので捏造。従弟妹よりブロッケンマンの方が半年年長設定。
「……アタル様も寒がりだとは思いませんでした」
 ぽつり、と。
 目前の主人兄弟の様相を眺めつつ、ミートは呟いた。
「寒がり――そうかもしれんな」
 その、ミートの呟きに、少し視線を中空に外し、アタルは独り言のようにそうこぼす。
「誰だって寒いのはいやじゃろう。のう、兄さん?」
 ミートの、かすかに呆れの混じった視線を受けつつ、キン肉マンは口を尖らせて反論し、そして、兄にも同意を求めた。

 ――まあ、呆れられても仕方がないだろう。
 なにせ。
 着膨れしたキン肉マンの姿は毎冬見慣れたものだが。
 それでも寒いのか、弟が、兄の背中にぴったりと抱きついて温もりを求めたのが、先だった。
 そして、抱きつかれた兄も、腹の辺りで指を組まれた弟の両手を、両の手で握り締め返したのだった。
 さらに、いつの間にやら、体勢が入れ替わり、兄の方が弟の肩に両腕を回し、自らが着ていた足首まで丈があるロングコートで包み込むように背後から抱きしめる格好になっていた。
 互いに、相手の体温が唯一の暖気だといわんばかりに密着して離れようとしない。
 それが、二十代と三十代の兄弟のやっていることだと思えば、ミートが多少呆れるのも、仕方あるまい。

「兄さんは、手が冷たいからのう。寒さがこたえるじゃろう?」
「そうか。わたしは末端冷え性だったのか」
 ぎゅう、と。
 互いに相手に身を寄せながら、のほほんと、そんなことを言い合う二人の姿に。
「寒がりって、遺伝なんですかね」
 ふう、と一息こぼして。
 ミートは呟くのだった。



『いっしょだとあたたかい。』(09年1月初出)
年々、密着度が増している肉兄弟(失笑)
「ほんとーに、誕生日じゃったのか……」

「だから、最初からそう言ってるじゃないですか! そんな嘘ついて、何になるんですか」

「仕方ないじゃろう! ミートが悪いんじゃ!」

「どうして、ボクが悪いんですか、理不尽ですよ、王子!」

「いーや、ミートが悪い! エイプリールフールに、今日は誕生日じゃと言われても、嘘だと思うじゃろ!」

「エイプリールフールだなんて、知りませんでしたよ! 大体、地球にそんな風習があるなんて、ボクが知ってるわけないじゃないですか!」

「わたしだって、ミートがエイプリールフールを知らんかったとは知らなんだわい!」



「……二人とも。ええ加減にせえへん?」

 ――キン肉ハウスでの誕生祝いが始まるまで、まだまだ時間がかかりそうだった。



『万愚節』(09年4月初出)
スグルくんの誕生日にアップ出来ないことが事前に分かっていたので、こういうかんじにしてみた。
 ありがとう。

 お決まりの祝いの言葉の合間に、不意に言われた礼に、キン肉マンは元より大きな目を更に見開いた。
 予想外だったのは、親友の隣を陣取っていたテリーマンも同様だったようだ。首を傾げながら、その言葉を口にした友人に反問した。
「どうしたんだ、ブロッケン。いきなり?」
 訊き返され――、軽く瞬いてブロッケンJr.は逆に問い返した。
「何か可笑しいか?」
「可笑しいっていうか……、驚いたぞ。急に礼を言うから」
 ブロッケンJr.の言葉に、ウルフマンも不思議そうに口を開く。
 そんな、周囲の反応に、ブロッケンJr.は腕を組んで首を傾げて……独り言のように呟いた。
「っかしいなぁ……。オレは誕生日のたびにそう言われてたんだがなあ」
 普通、言わないのか?、と頭を傾ぐブロッケンJr.に、テリーマンが目を丸くしながら、あまり言わないだろう、と応える。
「――どうして、ありがとう、なんだ?」
 友人達のやり取りを見守っていたウォーズマンが、そこで控えめに口を挟んだ。
 周囲の疑問を代表したような問いかけに、他の仲間達も興味深げにブロッケンJr.の返答を待ち構える。
「どうしてっつーか……。親戚の伯父貴が毎年言うんだよ。親父の子供に生まれてきてくれてありがとう、って」
 だから、普通そう言うものだと思っていた、と軍帽の位置を片手でいじくりながらブロッケンJr.が語る言葉に、周囲の皆は、先ほどの驚きとは違う意味で瞠目した。
「なるほど」
「言われてみりゃ、正論だな」
「……優しい、言葉だな」
 そして、分け合う共感は、納得。
 それから、キン肉マンを振り返り……ブロッケン流の祝辞を皆で模倣した。



 誕生日、おめでとう。
 生まれてきたことに対する祝意。

 生まれてきてくれて、ありがとう。
 出会えたことに対する感謝。

 その二つの思いは、同じ一つの想いを根幹とする思い。
 彼に、出会えたことを喜ぶ想い。



『祝礼』(09年4月初出)
スグルくんの誕生日は、必ず毎年祝うのが、当サイトのポリシーです(笑)
 ――今場所の千秋楽を優勝で飾ったウルフマンの前に、彼が現れたのは、月が皓々と照る夜半のことだった。

「けっこう、律儀な性質だったんだな」
 勧められた酒杯を受けながら、ウルフマンは笑んだ。
 その言葉に、そうか?、と応じながら、なみなみとウルフマンの盃に酒を注ぐ。
 そして、溢れんばかりに盃を満たした頃合いを見計らったように、ウルフマンは相手に手を差し出した。
 その仕草の示すものを了解したように、ウルフマンに渡された徳利を受け取り、今度はウルフマンが相手の盃に酒を注いだ。

 以前、共に飲もうと言った酒を手に入れた。

 そう言って前触れもなく現れた相手に、少しばかり驚いたのは……その話をした時が、彼と言葉を交わした最初だったことを考えれば、仕方が無いことだろう。

 この酒を手に入れたのが。
「横綱の威光を示した矢先であったのは、僥倖であった」
 そう言って。
 ふ、と小さく笑い、素焼きの盃を口元に運ぶ相手に、ウルフマンもつられて笑う。
「なんだ、祝い酒で準備したわけじゃないのか」
 彼の微笑みが実に穏やかだったので。
 ウルフマンもつい、昔なじみと話す調子で、そんな軽口がこぼれた。
「結果的に、そうなったな」
 返す言葉も和やかで。
 うっかり、昔からの仲間であったような気になってしまう。

「馬には乗ってみよ、人には添うてみよ、とは、言うけどよ」
 ふと、思いついた言葉が口をついて出た。
 その言葉に、彼が少し首を傾げた。――その仕草が、本当に元は地獄の六騎士などと呼ばれていたようには見えなかったので。
 ウルフマンはいっそう笑みを深くする。

「話してみると、あんた、気のいい奴なんだな。ニンジャ」

 そう言えば。
 ザ・ニンジャは、また、そうか、と呟いて微笑んだ。



『月盃』(09年6月初出)
04年の『静酒』の後日談、みたいなノリで。個人的にはこの二人で組ませてみるのは結構好き。

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