「乾杯!」
「かんぱーい!」
 次々に上がる、歓声。そして、グラスのぶつかり合う音と。
 ポーン……!  シャンパンの栓が飛び、噴き出したアルコールが床を叩く水音が続く。
 楽しげな、笑い混じりの声達は、悪戯の色を宿してあちこちで駆け出し始めていた。
「ビールは……」
 にやり、とあえて意地悪げに笑い――テリーマンは手にした缶ビールをおもむろに上下に振り始めた。
 そして、そのプルタグに指をかけ……。一気にそれを引き取った。
「よく振ってお飲み下さぁい!」
「おわあ!! 冷たいいぃ!!」
「うおっ!?」
 炭酸ガスと共に一気に噴き出したビールは、周囲にいた仲間達に襲いかかる。
「やってくれたな……!」
 ぺろり、と顔を滴るビールを舐め、ブロッケンJr.はテーブルの上にあった缶ビールに手を伸ばした。
 そして、ほらよ!の一言と共に、缶をビールかけの被害にあった仲間達に投げよこす。
「お返しじゃい!」
「Oh!!」
 にわかに勃発したビールかけ大会は、その参加人数と開催区域を一気に拡大して盛り上がっていく。
 マシンガンズと共にビールを掛け合うブロッケンJr.を、ウルフマンが先程のシャンパンを片手に背後から強襲すれば。
 どぼどぼに濡れた服を脱ぎ捨てて、お返しとばかりに両手のビールを頭からかけ返す。
 かと思えば、バッファローマンがおもむろに瓶ビールを二本手に取ると、その栓に親指をかけ――指先でそれを弾き飛ばした。
 勢いよく瓶の口から飛び出したアルコールが描く二本の放物線は、それぞれがマシンガンズに横合いから襲い掛かる。
「やってくれたのお!」
「お返しだぜ!」
 新たな挑戦者の乱入に、仲良くビールを掛け合っていた二人は、互いに向けていた攻撃の手を同時にバッファローマンの 方へと向けた。
「甘いぜ!」
 豪快に笑いながら、宇宙一タッグの攻撃を受けつつ、新たな瓶ビールを二本、手に取り大きく上下に振る。
 楽しげに響く笑い声は、長い時間、止むことは無かった。



『宴会1』(05年1月初出)
新年、ということでとりあえずめでたい感じで。祝い事といえばやはりビールかけでしょう。
「……いつものこととはいえ――」
 ほう、と吐息混じりで呆れたように目を見開いてラーメンマンが呟けば。
「――いいじゃないか、みんな楽しそうだから」
 既にアルコール臭だけでダウンしたジェロニモを介抱しながら、ウォーズマンはそっと目を細める。
「――まったく。騒がしい奴らだ」
「そう言ってやるな。奴らは騒ぐ酒の方が好きなのだ」
 ぼやく口調のアシュラマンをなだめるように、ニンジャがわずかに苦笑をにじませてそう言った。
 その時だった。
「兄さん!」
「ソルジャー!」
 突然の呼びかけにアタルが顔を上げると――。
 その、上げた顔めがけて、複数のビールの放物線が直撃してきた。
「油断大敵だぜ、ソルジャー」
「気を抜きましたね、アタルさま」
「まだまだ甘いのう、兄さん」
 一時休戦して結託した五人が中身の抜けた缶や瓶を手に、にやにやと笑っていた。
「――――ふ……。面白い。その挑戦、受けてやろう!」
 マスクに滴る水滴を指先で払うと、アタルはおもむろに立ち上がり――傍にあったビールの大樽を手に取る。
 そして両手で勢いよく上下に振ると――突然、それに拳をたたきつけた。
 拳によって開けられた穴から、ビールの激流が噴き出し、五人を襲う。
「おわあ!!」
「げ!」
 予想外の反撃に、流石にひるみ、五人は逃げ惑う。
「……アタルさままで……」
 戦線拡大の一途を辿るビールかけ戦争に、ラーメンマンは思わず額を押さえた。
「良いではないか。ソルジャーもそれなりに楽しそうだ」
 フフ、と笑みをこぼしながら、ニンジャはそう言うと手に持つ日本酒の杯に口をつける。
 その傍らで。
 一層増すアルコール臭に寝こけるジェロニモが悪酔いしないかと、案じずにはいられないウォーズマンだった。



『宴会2』(05年1月初出)
で、上の続き。初代は酒飲み話が多いです。そういや、ロビンいませんね。まったく気付いてませんでした(笑)
「……出来たv」
 ビビンバはデコ・ペン片手に、自身の力作を見下ろしながらにっこりと笑顔をこぼした。
 調理台の上に、でん、と鎮座するのは全長30センチはありそうな、巨大な黒褐色の板。――いや、正確には、板状ハート型のチョコレート。
 その表面全面に、白いデコ・ペンの文字でたどたどしく何かが書かれていた。
『大本命v』

 地球に来て。
 初めて知った日本の風習。
 この星で――この国で育った、ビビンバのたった一人の想い人にはきっと馴染み深いものの筈。
 だから、ビビンバもその習慣に便乗することにしたのだ。
 お店で買っただけのものなんて、イヤ。
 あの方に食べていただくなら、わたしの作ったものを。
 気持ちをめいっぱいに込めたものを渡したい、受け取って欲しい。
 チョコレートを溶かして型に流し込んだだけの、調理したとは言い難い手作りチョコだが。
 慣れぬ手つきで書いたデコレーションの文字は、お世辞にも装飾とは言い難かったが。

「喜んで下さるかしら?」
 箱に入れたチョコレートを赤のチェック模様が描かれた包装に包んで、黄色のリボンをきゅ、っと結ぶ。
 そのラッピング越しに、薄くリップを塗られた唇が、一瞬、羽根のように触れた。
「待っていて下さいね、スグルさまv」
 チョコレートの形をとった愛情を抱きしめて。
 ビビンバは浮き立つ足取りで、田園調布のキン肉ハウスへと出かけていったのだった――。



『バレンタインディ・キス』(05年2月初出)
一番悩んだのはデコ・ペンの文だったり。書いている間中、あの歌が頭から離れませんでした(笑)
――貴女が、彼との間に生まれた息子をあやす姿が、オレは好きです。
その、言葉で言い表せないほどの、幸福そのものの光景が、オレは好きです。
オレには望みようがない、その優しい風景を、出来ればずっと見ていたい。
貴女が、ロビンの側で幸せそうに笑う姿が、見ていてとても嬉しいんです。
貴女が、ケビンを慈しむ様相は、オレの心を本当に安らげてくれるんです。
だから。
貴女にはそうやって、ずっと微笑んでいて欲しい。
そんな人並みの幸せはオレには望むべくもないけれど。
貴女達が幸福なら、それを見ているだけでオレも満たされるんです……。



『独白3』(05年6月初出)
書いたはいいが、アップする場所に困っていたもの。アリサ←ウォーズは無自覚でプラトなのが萌え。
最初は。
『ブロッケン』と呼ばれるたびに妙な気がしたものだ。
何故なら、その呼び方は昔はオレのものではなかったから。
『ブロッケン』と呼ばれるのは――その呼び名は、ずっと親父のものだった。
伯父や、一族の長老や、傍流の者達。
皆、親父のことを『ブロッケン』と呼んでいた。
そして、オレはずっと『ジュニア』だった。
『ブロッケンJr.』というリングネームを得る前から。
人間としての名も、親父と同じ名を持っていたオレは、物心ついた頃から周囲の大人達から『ジュニア』と呼ばれていた。
だが。
いつの間にか、『ブロッケン』はオレの呼び名になっていた。
オレのファイトを見る者達。
オレの仲間達。
気付けば、皆がオレを『ブロッケン』と呼ぶのが当たり前になっていた。
『ブロッケン』はオレの呼び名になっていた。

――なあ、親父。
いつか、『親父の息子』ではなく、親父が『オレの父親』だと世間に言わせてみろ、と言っただろう?
オレは、あんたの望んだとおりになれたかな?



『独白4』(05年7月初出)
以前書いて放置していたものを書き直したもの。『伯秋譚』ともリンクしていたり。
どうして、と訊いた君に、オレはうわべを取り繕う嘘をついた。
本当は、恩を返すとか、そんなことじゃなかったんだ。
ただ、君に申し訳なかったんだ。
オレは、一度、君から逃げたから。
日々成長していく君が、目に見えて変わっていく君が、オレは怖かったんだ。
変わらない――変化がほとんど表面に現れない自分自身を突きつけられているようで。
そうして、オレは君から逃げ、君を裏切った。
オレは……ただ、その償いをしたかったんだ。
例え――故国を自国と呼ぶことが出来なくなっても。
それでも、オレは……君に対する過去の過失を贖いたかったんだ……ケビン――。



『独白5』(05年8月初出)
書いたはいいが、アップする場所に困っていたもの、その2。
 己の足元に、ちょこんと置かれた――否、座った、か――白く丸っこいモノを眺めながら、鬱陶しげな溜め息をひとつ。
 ころころとした毬のようなソレには、小さく真白で柔らかそうな羽根が一対。
 その羽根を、ふるふると震わせながら、じっと、ソレはこちらを見上げていた。
 そして、見下ろすこちらが連想するのは、ボールに羽をつけて転がしている光景。
 ――勿論のこと、それはボールなどではない。
 れっきとした、生命体――乳幼児だった。
 それも、己の従弟だという――皮肉の効いたことに。
 漆黒をまとう自分と、半分は同じ血が流れる相手は純白というのだから、遺伝というものは本当にあてにならないものだ。
 ああ、だが、しかし。
 こんなものを目の前に転がされて――実際は転がっているのではなく、座り込んでいるわけだが――、己に何をしろというのだろう、これを生んだ女性は。そして、その姉妹たる女性は。
 己に、子供の扱いなど、分かる筈があるまい。――まあ、そういう己も世間の常識に照らし合わせれば、九歳の子供なのだが。
 息つく暇も与えない猛攻。起き上がる隙も与えない搦め手。そういったものなら、幾らでも手段はあるのだが。
 ああ、まったく。
 放り出すわけにもいかず、目前にあることを黙認していただけだというのに、ソレは唐突に四つん這いになり、這い寄って来た。
 そして、無断でこちらの足に掴まって、向こう脛に縋るように立ち上がった。
 どうしろというのだ。
 舌打ち交じりに――穴の開いた顔のどこに舌があるのだ、というツッコミを聞くつもりはない――掴む手を払おうと、軽く足を動かす。――正確には、軽く、のつもりだった。
 そうすれば。
 ソレは、いとも容易く宙を舞った――言葉を補足すれば、振った足から払い除けられ、飛んだのだ。
 流石に、そのまま床に落とすわけにもいかず、振った足で落下してきたソレを受け止める。
 腹這いの状態で、足の上に落ちてきたソレは――一瞬、不思議そうな表情を見せたかと思うと、次の瞬間には、それはそれは嬉しそうな笑みをこちらに向けてきた。
 そして、片手は足を掴み、もう片方の手で、ぺちぺちと、ふくらはぎをはたく。――どうやら、もう一度、飛ばせ、と言いたいらしい。
 ――まったく、本当に。
 こんなものを、一体、己にどうしろというのだ。
 手の施しようがなく、俺は天を仰いで嘆息をこぼした――勿論、どこに口があるのだ、という疑問に答える気はない。



『従弟との出会い』(05年10月初出)
これが、ペンタゴンいわく「遊んでもらった記憶」のようです(笑)
 次元の交錯によって、本来ならばまみえることのない者達が会し。
 正しい時間軸の流れの中であれば、拳を交えることも叶わない筈の者達がリングで向き合っていた。
 それは、そんな場で起こった小さな出来事。

 リングサイドで、若い超人達の試合運びをカメハメが眺めていると。
 傍らに気配を感じ、ふと、視線を転じた。
 向けた視線が捕らえたのは、己の持つ百の技を伝えた弟子の姿。
 肩越しに振り返った師に、キン肉マンは応えるように、満面の笑みを浮かべた。
 そして、ごく自然にカメハメの隣に並ぶと、そのままそこに座りこみ、腰を落ちつける。
 それは――隣に弟子がいること、そして、師の側にいることは、あまりにも当たり前に思える情景だった。
 それが、あまりにも自然であったので。
 師は弟子にそこに来た理由を問うこともなく、穏やかに目を細め、視線を元通り正面へと転じた。
 弟子もまた、何を言うでもなく、笑みを浮かべたまま、隣に並んで座っていた。
 そうして、幾許かの時が、静かに流れる。
「……師匠」
 不意に。
 小さな声音で呼びかけられ。
 視線を隣に転じ、カメハメは軽く首を傾げた。
「ん? どうしたんじゃ、キン肉マン」
 聞き返せば、呼びかけた当の弟子は、大きくかぶりを振る。
「いや、気にせんでくれ、師匠。なんでもないんじゃ」
 わずかに、照れたように。
 幸せそうな――それでいて、切ないような――微笑みを浮かべて、キン肉マンは首を横に振った。
 ――本来ならば、過去にしか存在しない人。
 本当なら、寿命を終え、逝くべき場所に逝った後でなければ、再びまみえることの叶わない人。
 話したいことは幾つもあった筈なのに、今は、そのどれも言葉にならなかった。
 ただ。
 もはや会えぬ人、会える筈のない人と、こうして共にいることが叶った未曾有の奇跡が――嬉しい。
 けれど、同時に、本来の時間軸に戻れば、声を聞くことも触れることも叶わないことは解っていて――だから、ほんの少し、寂しい。
 語る言葉は見つからず、その代わりに、そっと、盗み見るように視線だけを師に向ける。
 そうすれば。
 穏やかに――切望を果たしたかのような満ち足りた眼差しとかちあった。
 望んだものを、目の当たりにした――そんな、幸福を帯びた眼差しがそこにあった。

 互いに語る言葉は出てこないままではあったけれど。
 師と弟子は、あり得ぬ再会劇を噛みしめるように、無言で肩を並べていた……。



『肉ゲー劇場小噺編』(05年11月初出)
たんに師弟の仲良しっぷりが書きたかっただけです(笑)
 イルミネーションがきらめく街並みの、その人波の中。
 そわそわと。
 居心地悪げに。
 その人は、落ちつかぬ様相で、待ち合わせの目印に使われる彫像の側をうろついていた。
 同種の中では決して大柄ではないが、周囲の人間に比べれば飛びぬけた体躯。
 その肉厚の身体を包むのは、特徴的な派手な柄が描かれた白地のスーツ。
 大きな目は困ったようにしかめられ、その瞳はキョロキョロと周囲を見渡してばかりいる。
 はたから見れば、人待ち顔の初々しささえうかがえる様子なのだが。
 本人にしてみれば、馴れない場所に一人放り出されて、ただただ落ち着かないばかりだった。
 靴裏は地面をコツコツと、指先は組んだ上腕をトントンと叩き、落ち着かない音を奏で。
 ふう、と大きく吐息をつきかけた、まさにその瞬間。
「スグルさまぁー!」
 大きな声で名を呼ばれ、弾かれたように顔をあげる。
「おお、ビビンバ。遅かったではないか」
 呼ばれて振り返れば、否と言わせぬ積極さで今日の待ち合わせを取り付けた待ち人が、大きく手を振りながらこちらへと駆け寄ってくる姿が見いだせた。
 いつものようにポニーテールに結った髪には、ひらひらと踊るリボン。
 ふわり、と広がるチェックのスカートに、白いコートを重ねて。
 軽やかに動く足元は、珍しくヒールのあるパンプスを履いている。
 数歩踏み出せば手の届く位置まで近付いたその顔には、いつもはほとんどしない化粧が軽く施されていた。
「お待たせしてごめんなさい、スグルさま。……っ」
 微笑みながら謝辞を告げようとしたその時。
 ガクリ、とビビンバの身体が傾いだ。
「おわ!?」
 そして、反射的に手を伸ばしたキン肉マンの腕の中に、そのまま倒れこむ。

「ごめんなさい! スグルさま!」
「大丈夫か、ビビンバ!?」

 次の瞬間、二人同時に口を開いていた。
 あまりにぴったりと合ったタイミングに、一瞬互いに目を見開いて。
 そして、どちらかとも無く、顔をほころばせた。
「慌てすぎじゃ。そんなに急がんでもちゃんと待っておるぞ」
「だって、早くお側に行きたかったんですもの」
 さらり、と、桜色に塗られた唇から零れた言葉に。
 キン肉マンは大きく目を見開いて――それから、顔を背けた。
「まったく……ホレ、行くぞい。いつまでも外におっては寒くて仕方ないわい」
 ぶっきらぼうにそう言うと、顔を背けたまま、ビビンバの手を掴む。そして、さっさと歩き出した。
 背けた顔の、その輪郭に。
 うっすらとにじむ朱色が見えたことは。
 ビビンバだけの秘密となった――。



『X-Day date』(05年12月初出)
照れ屋なスグル君と、積極的なビビンバが好きじゃあ(笑)

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