「……まったく。皆、相変わらずだな」 かなり初期段階で酔いつぶれた、下戸のジェロニモ。 その隣には、やはり酒にはあまり強くないブロッケンJr.が転がっている。 そして、ほぼ同時に睡魔に屈服したキン肉マン、テリーマン、ウルフマンの三人。 それらを見下ろしながらラーマンマンは呆れた口調で呟いた。 「……そうだな」 ラーメンマンのぼやきにも似た呟きに、ウォーズマンの苦笑交じりの呟きが続けられた。 そのウォーズマンの肩には、流石に酔いが回り、半分眠り始めているバッファローマンの腕が乗せられている。 先程から彼が笑いながら再三勧めた杯が、今、床に転がっている五人を生産したのだった。 実の所、バッファローマンが酒を飲み下品なことを言う段階では本人にそれほど酔いはまわっていない。 それは半ば以上、わざと遊んでいるのだ。 本当に酔いが回ってくると、強引に酒を勧めはじめる。 それに辟易し、ロビンは誘っても酒の席に来なくなったのだが。 「まったく、仕方のない連中だ」 溜め息をつきながらも、そう言うラーメンマンの表情には微笑が刻まれていた。 「そうだな」 応じるウォーズマンもまた、微笑んでいた。 そしてウワバミである為に、最後に酔っ払い達を部屋に運ぶ役目を自然に負った二人はどちらともなく腰を上げた。 『酒宴の後』(04年6月初出) |
飲まないか、と誘われ、腰を落ち着けたホテルのラウンジには、時間のせいか人の気配はない。 「酒の相手が拙者で良かったのか?」 差し出された色ガラスの小さなグラスには、よく冷やされた冷酒が注がれていた。 「ああ。むしろ、今はあんたの方がいいかな? さっきまで散々騒いでたからな。静かに飲みたい気分なのさ」 にやり、と笑って、ウルフマンは手にした清酒の満たされたグラスに口をつけた。 一口酒を舐め、それに、と言葉を続ける。 「日本酒の良さを分からん連中が多いからな。――あんたなら、と思ったんだ」 微笑いながらそう言われ、ザ・ニンジャもかすかに喉の奥で笑った。 「……確かに。ブロッケンは麦酒を好むし、バッファローマンも蒸留酒でなくば物足りぬ、と言いおる」 「キン肉マンも、ビール党だからなあ。日本酒党が少ないんだ」 嘆くような仕草を見せるウルフマンの様相に、低く笑いながらニンジャも酒を口に含む。 「……うむ。良い酒だな」 舌先で、酒の風味を味わいながらニンジャが呟く。 それを聞いて、ウルフマンは楽しそうに目を細めた。 「だろう? オレが一番好きな酒だ」 「悪くはない」 「巡行で地方に行くことが多いからな。行った先で地酒とかよく飲むんだ。良い酒があちこちにある」 「うむ。良き米と美味い水のある土地では、上質の酒が出来るものだ」 さもあらん、と頷くニンジャの反応に、ウルフマンはますます笑みを深めた。 「――オレの連絡先教えとくからさ、今度、また飲まねえか?」 ぽつり、と。 ウルフマンが何気なく呟いた一言に、刹那、ニンジャは押し黙る。 が、それも一瞬のことで、次の瞬間には、悪魔超人とは思えぬような穏やかな笑みをたたえて頷いた。 「――ああ。それも良いな。では、その時は拙者の推す酒を振舞おう」 「いいな。楽しみだ」 かすかな笑い声をたて、ウルフマンは楽しそうに目を細める。 ――そうして、大阪での夜は更けていった。 『静酒』(04年6月初出) |
「取り合えず、残りのビールは冷蔵庫に掘り込んどくぜ。ぬるいビールなんか飲めたもんじゃねえからな」 「先輩、皿はどこズラ?」 「出さんでもいいのではないかのう? 柿ピーは袋のままでもよかろう?」 「チーズも、個別包装だから問題ないと思うぞ。サラミもそのままかじっていいんじゃないか?」 「……先輩方。ミート君やナツコさん達が聞いたら、怒られるズラよ。そんなずぼらじゃ」 「いいじゃねえか、たまには。キン肉マンはこの赤いラベルのやつで、テリーはこっちの緑のやつだな?」 「おお、そうじゃ、ア○ヒは私のじゃ」 「ブロッケン、ノンアルコールビールはジェロの分な」 「おう」 「ありがとうズラ」 「ブロッケンはやっぱり黒ビールなんじゃのう」 「黒じゃなきゃ、ビールとは言えねえぜ」 「わざわざ輸入ビールを探して、酒屋に行った甲斐があったな」 「そいじゃ、乾杯、といこうかのう」 「何に乾杯するズラ?」 「何でもいいわい。取り合えず、皆で飲むだけでも、充分乾杯する理由になるじゃろ?」 「……そうだな」 「じゃあ。乾杯」 「乾杯!」 『乾杯!』(04年6月初出) |
「……ペースが速くないか、バッファローマン?」 少し心配げに目頭を寄せるウォーズマンに、バッファローマンは片方の目を吊り上げて悪戯っぽく笑って応えた。 「大丈夫だって。このぐらいじゃつぶれねえよ」 「だが、けっこうアルコール度数、高いだろう? そんな飲み方で体に悪くないか?」 「おいおい。酒の席なんだから、もう少し気楽にいこうぜ」 あくまで生真面目な友人に、苦笑気味に微笑んで、酒が満たされたグラスを掲げてみせた。 「……悪い。興ざめだったか?」 それでも、生真面目な目の前の男は、申し訳なさそうな表情でそんなことを言う。 その様相に、もう一度苦笑して、バッファローマンは悪戯を思いついた子供の表情で、片目を閉じ笑みを浮かべた。 そして、おもむろに酒瓶を手に取ると、その瓶の口をウォーズマンのほうに向ける。 「そうだなあ――。悪かったと思うんなら、今日はつぶれるまで付き合ってもらおうじゃねえか」 ニヤリ、と笑って、半分だけ空けられたウォーズマンの手の中のグラスに酒を足す。 ウォーズマンは、なみなみと、こぼれそうなほど注がれたグラスを、しばらく困ったように眺めていたが。 ふと、苦笑するように笑った。 「……分かった。仕方がないな、付き合うよ」 「ああ、付き合えよ?」 そう言いながら笑いあい。 注がれた酒を、ウォーズマンはあおった――。 『勧酒』(04年6月初出) |
――どうしても、行くのかと、共に故郷に帰ってはくれぬのかと、お前は言ってくれるが。 だが、それは叶わぬ――なしてはならぬことだ。 王制における血統主義というものを、軽視はしないことだ。 お前は、己の力でその王冠を勝ち得た。それは純然たる事実だ。 しかし――いや、だからこそ、かつての第一王位継承者など、いてはならぬ――意識させてはならぬのだ。 ――一緒に……皆で一緒に帰れば、父も母もきっと喜ぶだろうに、と、思うお前の望みをかなえてやりたい、と思わぬ筈もないのだが。 ようやくひとつどころに揃った家族が、また、離れることが、お前の心を曇らせると分かっていてなお。 私は、お前のその願いだけは叶えてやれぬ。 ……すまんな。 私は結局、お前の側にいてやれぬ――お前を側で支えてやれぬ不肖の兄に過ぎんらしい。 お前の望むものを与えてはやれぬが――私は常に、お前のことを思っているぞ――スグル……。 『独白―戦いの後―』(04年7月初出、04年11月一部加筆) |
――すまん……。 謝らんでくれ、ロビン。 お前達には、お前達の立場があるじゃろう? ――この胸の勲章さえ……。 そんなことは言わんでくれ、テリー。 お前達が今まで負った傷と流した血から考えれば、受けて当然の……受けるべきものなのじゃから。 だから……言える筈がないじゃろう? 今までお前達がどれほど傷ついたか、知っておるのに。 これまでの戦いでどれほどの血を流したか、分かっておるのに。 じゃというのに。 正義の為でもなく。 人々の為でもなく。 私の為に共に戦って欲しい、などと。 言える筈が、ないではないか……。 『独白―王位争奪臨戦―』(04年7月初出) |
「王子? テリーマンさん? どこですかー?」 夕暮れの中、ミートは二人を探して砂浜を歩いていた。 「まったく……もうすぐ夕食だというのに……二人ともどこに行ったんだろう?」 溜め息まじりに呟きながら、きょろきょろと視線をめぐらせる。 そして。 遥か先に、遠目にも超人と分かる大きな人影が二つ、重なって見えた。 「王……」 呼びかけようとして。 その、夕闇に染められ影にしか見えないそれの、ただならぬ様子に気付き、ミートは声を止めた。 寄り添うように重なる二つの人影の内、一つは……泣いているかのように肩を震わせているのが、分かったから。 だから。 ミートは呼びかけの言葉を飲み込んで、踵を返し、今来た道を戻っていった――。 『追憶悲譚』おまけ(04年7月初出) |
「うむ。出来たぞ」 「おー。意外に似合うじゃねえか、アシュラ」 「六本腕でどうやって浴衣着るのかと思ったけど……そういや、しまえたんだっけ?」 「……随分、変わった衣装だな。大丈夫なのか?」 「大丈夫とは……? ああ、着崩れの心配ならばないぞ。拙者は着物に馴れておるゆえ。崩れるような着付けはせぬ」 「おぉい、兄さん、みんなー。着替え終わったかの〜?」 「おお、スグル。その浴衣、中々似合うぞ」 「兄さんも男ぶりが上がっておるぞい(^_^) テリー達も着替え終わったから、そろそろ行かんかのう」 「ああ、行くか。日本の花火を見るのは久しぶりだぜ」 「しかし、ブロッケン。お主、よく浴衣など持っておったな」 「前にウルフマン御用達のトコで作ってもらったんだ。似合うだろ?」 「ニンジャ。この履物はどうやって履くのだ?」 「親指と人差し指の間に、この鼻緒の部分を挟むのだ」 「兄さん、ほれ、急ごう。早く行かんと始まってしまうぞ〜」 「ふ……楽しそうだな、スグル」 『浴衣』(04年8月初出) |
「うわあ……すごいズラァ……」 草生い茂る水辺に、ふわりふわりと小さな光が緩やかに舞う光景に、ジェロニモが感嘆の呟きをもらす。 その背中を、微笑ましげな表情で眺めながら、ウルフマンがほんの少し得意げに言葉を投げかけた。 「どうだ? 田舎まで来た甲斐があっただろ? 蛍はな、水がキレイなとこにしかいねえんだ」 「……ああ、だから、東京では見ないんだな」 ウルフマンの一言に、納得したように頷きながらウォーズマンが呟いた。 その、ウォーズマンの呟きに、側にいたラーメンマンも頷く。 「実に、見事なものだ」 「おーい、みんなー。こっちじゃ、こっち。こっちはもっとすごいぞー」 その時、離れたところからキン肉マンが呼ぶ声が聞こえてきた。 その呼び声に、その場の四人は顔を見合わせて――微笑み合うと、声のした方へとゆっくりと歩き始めた。 『蛍』(04年8月初出) |
コツーン……。 「すごい! テリーマンさん、また当たりましたよ」 「すごいのお。流石テリーじゃ」 「まあな(^ー^) 銃は得意だからな」 「フ……。テリーよ。あまり天狗になるものではないぞ」 コーン……。 「うわあ、ロビンマスクさんもすごいや」 「おお、やるのう、ロビン」 「……ふ……。やるじゃないか、ロビン」 「フン。このくらいは当然だ」 「……見くびられちゃ困るぜ、ロビン。オレもまだまだ本気じゃないからな」 「――何を言うのだ。このわたしには、この程度、片手間にでも出来るわ」 「……あの〜。テリーマンさん、ロビンマスクさん?」 「ロビン。どうだ、どっちの腕前が上か、勝負してみようじゃないか!」 「良かろう。受けて立つ!」 「……夜店の射的で白熱しないで下さいよ、二人とも(・・;)大人気ないですよ」 「……。このままじゃと射的の景品、総取りできそうじゃな」 「……王子。面白がってるでしょ?」 『夜店』(04年8月初出) |
パアアン……。 「銃声!?」 突然、街中で鳴り響いた砲声に、ぎょっとしてテリーマンは振り返った。 その隣を歩くキン肉マンも、音のした方に顔を向け……車道をはさんだ対岸に音源を見つけ、目を細めた。 「……おお、運動会じゃのう」 「運動会?」 「そうだなあ……学生が参加する学校主催のスポーツ大会、てとこだな」 不思議そうに首を傾げるテリーマンに、もう一人の同行者・ウルフマンが簡単な説明をほどこす。 車道の向こうにあったのは、小学校。 その校庭は塀ではなく、高いネットで周囲を囲われており、校内の様子がよく見えた。 赤や白の体育帽と白基調の体操着に身を包んだ子供達が、トラックを一生懸命に走る姿は可愛らしく、微笑ましさに顔が緩む。 「微笑ましいのう」 「最近は、随分早い時期に運動会をするんだな。昔は運動会っていや、十月だったぜ」 「そういえば、最近はどこの学校も九月にしておるようじゃのう」 日本出身の二人の会話に、ただ一人米国出身のテリーマンは軽く首を傾げた。 「? 時期があるのか?」 「まあな。日本じゃ、運動会は秋って相場が決まってんだ」 「まだまだ暑いが、もう秋なんじゃな」 しみじみと呟きながら、彼らはしばしの間、幼い子供達がグランドを駆け回る姿を見守っていた。 『運動会』(04年9月初出) |
天には満月。 首の長い花瓶にはススキを挿して。 小さな丸い団子を積み上げて。 いかにも、な典型的お月見のセッティングに、日本の風習になじみのない面々ばかりか、日本暮らしの長いキン肉マンですら、物珍しげに覗きこんでくる。 「ここまで大掛かりに月見をするのは久方ぶりだな」 「たまにはいいじゃねえか、ベタな月見ってのもな」 率先して支度をした、和服の似合う日本超人二人がそう言って笑いあう。 「日本人ってさ、自然のもん見るの、ホント好きだよな」 物珍しげに団子を見つめながら、しみじみとブロッケンJr.が呟くと、隣にいたバッファローマンも頷いた。 その言葉に、ラーメンマンが軽い苦笑を浮かべ、こう言った。 「それが、情緒というものだ」 「もう少ししたら、紅葉狩りにも行こうぞい。のう、兄さん」 「うむ、それは楽しみだな」 嬉しそうに笑って弟がそう言ったので。 兄も目を細めて頷いた。 和やかな月見の一行に。 天の月も常より優しく輝いて見えた。 『仲秋の名月』(04年9月初出) |
「まったく……。がぶ飲みするものではない、と言っただろうに……」 ふう、と溜め息をついて、ラーメンマンはテーブルの周辺に累々と横たわる酔っ払い達の寝姿を一瞥する。 いつものことだが、一口でつぶれたジェロニモ。 そのしばらく後に相次いで眠りの世界に突入したのはブロッケンJr.、キン肉マン、テリーマンの三人。 珍しく今回の酒には同席したロビンマスクも、うつらうつらと舟をこいでいた。 そして、それらを酔いつぶした元凶・バッファローマンも既に睡魔に捕まり、テーブルに突っ伏すように爆睡していた。 「……仕方がないな、みんな」 苦笑まじりに微笑みながら、もう一人、素面を保っていたウォーズマンが呟く。 それぞれの手の中にあるのは、カッティングの美しいグラス。 その中に満たされた酒には、菊の花弁が浮かべられていた。 「無病息災を願う酒だと、説明したというのに……酔いつぶれるほど飲んでは意味がないではないか」 軽く頭を振って、呟くラーメンマンに、ウォーズマンは控え目に、酔っ払い達を擁護する言葉を口にした。 「……でも、楽しんでたから、いいんじゃないか?」 「…………そうだな」 その言葉に、ラーメンマンは少し苦笑をにじませながらも頷いたのだった。 『重陽の節句』(04年9月初出) |
「よお、ウォーズマンじゃねえか」 「……ブロッケン? やあ、偶然だな」 商店街の片隅にある、とある古書店。 何気なく覗いてみたその古本屋に、見知った後ろ姿を見つけ、ブロッケンJr.は笑みを浮かべて、その肩に手を置き、和やかに声をかけた。 声をかけてきたのが仲間だと気付き、目元に微笑を浮かべて軽く会釈をしたウォーズマンの手元を覗き込み、ブロッケンJr.は軽く目を見開いた。 「うっわあ……。漢字だらけだな、それ。読めるのか?」 超人であるから、会話なら何ヶ国語でもいけるが、読み書きは別である。 しかも、日本語は平仮名・片仮名・漢字の三種類の文字を併用する為、読んだり書いたりするほうは苦手だという者は多いのだ。 かくいうブロッケンJr.も、ウルフマンに習ったおかげで仮名文字はマスターしたが、漢字がまじるとお手上げなのだ。 「全部は無理だな。仮名は分かるんだが……漢字はまだ知らない字があるから……」 そっと苦笑して、ウォーズマンは、だから、と言葉を続けた。 「日本語の本を読む時は、露和辞典と漢和辞典を横に置いておくんだ」 「漢和辞典か……。アレってひくのが大変なんだよなあ。画数なんて分かんねえし」 深々と溜め息をつくブロッケンJr.に、ウォーズマンは少し微笑む。 「オレの使ってる辞書は調べやすいぞ?」 「へえ……どこの出版社のやつ?」 しばらく“使いやすい辞書談義”に盛り上がった二人が、その後、別の本屋に漢和辞典を買いに移動したのは、いうまでもない。 『読書の秋』(04年10月初出) |
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